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ササと雪の密接な関係

2008年12月1日
文:植物調査室 吉田 馨
(WEB公開:2011年12月1日)

植物と気候

以前の話ですが、私が初めて訪れた場所で、地元の方と雪の話になりました。

私:「この辺りは雪が積っても50-70cmくらいじゃないですか?」
地元の方:「ええ。この辺りは結構降るんですが、1mは積もりません。(多少驚きながら)よくわかりましたね」
私:「植物を見れば、その地域の気候は多少わかるんですよ」

秘密はササにある

どうして私に初めて来た場所の積雪量がわかったのでしょうか? その理由は周囲に生えていたササにあります。
ササの仲間は、その分布域によって芽の位置が異なっており、例えばミヤコザサ節(ミヤコザサ節とはミヤコザサの仲間の総称だと思ってください)は地表から地面の中、クマイザサ節やチシマザサ節は茎の途中につけます(図1)

  • ミヤコザサ節とチマキザサ節の生活形

    ミヤコザサ節とチマキザサ節の生活形

ササの節と積雪

クマイザサ節やチシマザサ節の芽が茎の途中にある理由として、これらは多雪地帯に分布し、冬に植物体が雪の下になることで芽が寒さから守られることがあります(気温がマイナス20℃なんていうときでも、雪の下の深さ50cmほどのところではマイナス2℃くらいにしかなりません)。また、冬は空気が乾燥していますが、雪の下では乾燥によって新芽を痛むこともありません。またクマイザサ節やチシマザサ節は茎自体がもともと斜めに出ており、さらに茎に弾力性があるため、雪で潰されても茎は折れず、春になって雪が解ければまたもとに戻るという性質があります。そのため冬は雪が降ると茎は簡単に倒れてしまい、早く雪に埋まってしまいます。

ではチシマザサを雪が少ない太平洋側に持ってくるとどうなるかというと、実は寒さと乾燥にさらされたチシマザサの新芽は枯れてしまいます。このような気候に適したササは、地表面から地中に芽をつけるミヤコザサ節となります。またスズタケ(本種はササ属ではなくスズタケ属ですが)には茎が直立する性質があるため、雪が深い地方ではその重みで折れてしまい、ミヤコザサ同様やはり生育するのは難しいようです。実際に積雪量とミヤコザサ、スズタケの分布域を比較してみると、ミヤコザサの分布の(東北地方から関東にかけての)西限が積雪50cmの線と実によく重なっているのがわかります(図2)。

  • ミヤコザサ線・スズタケ線

    ミヤコザサ線・スズタケ線

さてここまで読んだ方は、もう冒頭の私が積雪量を当てた理由はお分かりかと思います。一応説明をさせていただくと、実はこの会話の少し前に周辺を見渡したところ、チマキザサが多くミヤコザサは見られなかったのですが、所々でスズタケが生えていました。そこで積雪量とササの関係から、この地域の積雪量について推測した、というだけの話でした。

  • 【参考文献】
  • 鈴木貞雄「日本タケ科植物図鑑」聚海書林 1996
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