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ツバメ!震災の影響は?

2011年5月1日
文:佐竹 一秀
(WEB公開:2014年5月1日)

今年もツバメがやってきた

今年も南仙台駅にツバメが現れました。毎年駅舎の入り口に巣を作り、子育てを行なっていて、通勤の行き帰りに見ていました。4/20に駅舎内に出入りする姿をみつけて、「今年も来てくれた」と少し安心しました。

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    ツバメ:夏鳥

東南アジアから渡ってくるツバメ

ツバメはご存知の通り夏鳥で、東南アジアで越冬して、3~4月に日本に渡来して産卵、子育てを行ないます。巣は民家や建築物の軒先につくり、周辺を飛びまわり飛翔昆虫類を捕まえて餌にしています。仙台周辺では例年3月下旬ら4月初めに渡来します。産卵は4~7月に行い、1回で3~7個の卵を1日1卵ずつ産み、抱卵し、2週間程で孵化します。その後20日程で巣立ちますので、産卵から1ヶ月チョットで巣立つことになります。そのため、うまくすれば1シーズンに2回繁殖します。
ただ、2回目の産卵が遅くなると、餌となる昆虫の発生量が少なくなり、巣立ちできる雛の数が減ったり、全く巣立たなかったりもします。また、農村部では1回で5羽巣立つことが多いようですが、都市部では餌の確保が難しく4羽のことが多いようです。これも一要因として都市部のツバメが減少傾向にあると言われています(最近の家の外壁は汚れがつきにくくなっていますので、巣作りに適さない場所も多くなり、これも減少の要因です)。

戻ってくるのは同じ個体?

南仙台駅で毎年繁殖しているツバメは同じ個体なのでしょうか?
毎年同じツバメが同じ場所を利用しているのでしょうか?

バンディング調査(捕獲して足環をつけて個体の識別しながら、移動経路等を調べる調査)の大阪周辺の結果では、毎年同じ巣を利用する場合もありますが、そうでない場合でもその巣の周辺に戻ってきて繁殖を行なうことが知られています。ただ、前年に生れたツバメはその巣の周辺に戻ることは少ないようです。これは近親交配による遺伝子の劣化を防ぐことに関係しているといわれています。

どうやって戻ってくるのか

それでは毎年同じ場所にどのようにして戻っているのでしょうか?
何をたよりに、進むべき方向をきめているのでしょうか?

これに関しては様々な研究があり、いろいろな興味深い結果も得られています。昼は太陽の位置を体内時計で補正しながら、夜間は星座を見ながら渡っているようです。また地磁気や地形、季節風、さらには日没の位置や匂いを利用しているという報告もあります。さらには遺伝的にある時間飛ぶと方向転換するようなプログラムも持っているらしいです。それがないと、単独で渡りをする鳥では、その年生まれの若鳥が迷わずに目的地に行くことが出来ません。

ツバメたちも震災を感じた…?

今回の震災で津波によって家が流されてしまった場所にもツバメ達の巣はたくさんあったと思います。これらのツバメが南方から渡ってきて、東海地方を通過し、関東から東北地方の海岸沿いを通ってきた時に、どう感じたのでしょか。去年とは何か違う…建物がない。地形が違う、匂いが違う…繁殖する場所がない!被災地を離れていた人が、被災地に戻った時に感じた衝撃を味わったのでしょうか…。

今回の震災で、繁殖できる軒下等がなくなった場所も多くあるのではないでしょうか。また、水田に海水が入り昆虫も影響を受けて、餌の発生量も激減してしまう可能性があります。そのため、内陸部に移動するツバメも多くいるのではないでしょうか。

ツバメと人のよい関係

「ツバメが巣をかける家は繁栄する」、「家の中に巣をかけると最高にめでたい」、「巣をかけると豊作」、また「ツバメは田の神様を背負ってくな」どの言い伝えもあります。被災地にツバメが巣を作ってくれれば、それだけでも嬉しいですし、言い伝えの通りに復興も早く進むと思います(ツバメを被災地に呼びこむ「ツバメ復興プロジェクト」を計画しましょうか)。ツバメはスズメと並んで古くから人間の生活圏に入り込んできています。ツバメは水田の害虫を食べる益鳥であり、俗信にもあるように大切に見守られてきました。逆に人間のそばに居ることで、外敵の蛇やカラスから守ってもらっていて、お互いに良い関係を築いてきていました。

できるだけ早く人々の生活が安定し、ツバメが安心して子育てが出来る環境が整うことを切に望みます。復興した被災地の水田上空をツバメが群れ飛ぶ日が早く来ることを願いつつ。

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    ツバメの雛

  • 参考資料
  • 樋口広芳『鳥たちの旅 渡り鳥の衛生追跡』(日本放送出版協会、2005年)111-123頁
  • 国松俊英『鳥のことわざ うそほんと』(山と渓谷社、1990年)64-66頁
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