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辰年!!(架空の生き物・実在の生き物)

2012年1月20日
文:佐竹 一秀
(WEB公開:2015年1月20日)

今年は穏やかな年になりますように…

年の始めですが、おめでとうと言いたくない方もいると思います。いただいた年賀状の中にも、そのような言葉を使わずに挨拶されていた方も多くいました。私も春風献上なる言葉を選び送りました。被災地の方々は春が待ち遠しいと思います。はやく暖かな春風と日だまりが欲しいです。今年は穏やかな年になる事を切に願い、閖上の初日の出の写真を載せました。

今年は辰年です。十二支のなかで唯一、架空の生き物です(たぶん)。まだまだ発見されていない、生物もいますので…。昨年最終作が公開された映画、J・K・ローリング原作の「ハリー・ポッター」には、何種類ものドラゴン(龍・辰)が登場しています。チョット調べてみたのですが、純血種は10種と書いてあり、その中に東洋を生息地とする種が1種いました。「チャイニーズ・ファイヤボール種(中国火の玉種、獅子龍)」とのことで、日本にはいないのでしょうか、現地調査では遇いたくないものです。

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    閖上の初日の出

竜にまつわる小説、漫画、音楽

脱線ついでにもう少し。辰=龍といえば「ドラゴンボール」(鳥山明原作のシリーズマンガ)のシェンロンも有名です。地球上に散らばった7つの玉(ドラゴンボール)を集めると、シェンロンという龍が現れて願い事を一つかなえてくれるのです。もし願い事がかなうならば去年の3月11日以前に戻して下さい。

「小説・映画」、「マンガ」ときましたので、「音楽」でもう一つ。PPMというグループをご存じでしょうか。けして濃度の単位ではありません。ピーター・ポール&マリー(Peter, Paul and Mary)といい、1960年代のアメリカのフォークグループです。年配の方々には聞き覚えがあるのではないでしょうか。「500マイル」、「レモンツリー」、「花はどこへ行った」等の曲が知られています。また「パフ」という曲も有名です。Puff the Magic Dragon…パフという竜とジャッキー・ペーパーという少年の交流と別れをうたった歌で、小学校の教科書にも載ったと聞いたことがあり。日本では年配の方から小学生まで幅広く認知された曲ではないでしょうか。ちなみに「パフ」は竜の息や鳴き声に由来していると言われています。

実在の“竜”

ここからは実在の生物の話をします。辰は架空の生き物ですが、種名にタツの名を読み込んだ生き物の話です。そうです「タツノオトシゴ」です。タツノオトシゴ(竜の落とし子)は、トゲウオ目ヨウジウオ科タツノオトシゴ属に分類される魚の総称です。

体は鱗が変化した硬いデコボコの甲板に覆われていて、口は小さな管状の吻が前方に突き出ています。尾は長く、尾びれはありませんが、背中に小さな背びれがあります。普段は尾を海藻やサンゴなどに巻きつけて、頭を前方に向けて直立した姿勢をとっています。このような状態での写真や映像をよく見ますが、とても魚には見えませんよね。馬や竜に(本物の竜は見たことがありませんが)見えませんか。そのため別名ではウミウマ、カイマ、リュウノコマ、タツノコ等と呼ばれていますし、英名でも「Seahorse(シーホース : 海の馬)」と呼ばれています。

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    タツノオトシゴ

意外や肉食・オスが妊娠!?

主に熱帯・温帯域の沿岸浅海に生息していて、尾を絡めて身を隠せる岩礁域・藻場・サンゴ礁等の環境で種類・個体数が多くなっています。体色や突起なども種類間、個体間で変異が大きく、また擬態が得意で海草の茂み等に入りこむとなかなか見分けられません。口吻の形から微細なプランクトンしか食べられないと思われがちですが、肉食性で魚卵、小魚、甲殻類など小型の動物やプランクトンやベントスを吸い込んで食べます。

タツノオトシゴ属のオスは、腹部には育児嚢(いくじのう)という袋を持っています。カンガルー等の有袋類はメスにあります。繁殖期は春から秋にかけてで、メスは輸卵管をオスの育児嚢に差しこみ産卵し、育児嚢内で受精します。産卵されたオスは腹部が膨れ、ちょうど妊娠したように見えることから「オスが妊娠する」という言われ方もします(タツノオトシゴだけでなく、私も含めて妊娠している中年男性が多いようにも思いますが…)。

イトコにハトコに…

最後に笑い話を一席。

「タツノオトシゴの近縁種にタツノイトコというのがいるようですね」
「はあー、その近縁種にタツノハトコというのもいますよ」

これは本当のお話です。発見者に命名権があるので、イトコまでは理解できますが、ハトコはやりすぎではないでしょうか。そのうちに、マタイトコやミイトコなる近縁種が発見されるかも知れませんね。

松島にいるタツノオトシゴの仲間

松島湾にはサンゴタツという種類が生息しています。昔はお土産に乾燥させたサンゴタツが売られていたこともり、数も多かったようです。その頃の松島湾はサンゴタツの生息場所である藻場も多くあったと言われています。今回の津波で松島湾の藻場がさらに減っていて、サンゴタツもピンチです。E-TECも松島湾の藻場復活のための研究・活動を行っています。辰年ですのでタツノオトシゴ、サンゴタツを含めて海の生態系回復のために、皆様、本年もご協力の程よろしくお願い申し上げます。

  • 【参考資料】
  • 岡村収、尼岡邦夫『山渓カラー名鑑日本の海水魚』(山と渓谷社、1997年)174-177頁
  • J・K・ローリング著、松岡佑子訳『ホグワーツ校指定教科書Ⅰ幻の動物とその生息地』(静山社、2001年)47-49頁
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