ecoris_logo.svg

土用の丑の日はウナギを控えよう!

2014年7月1日
文:佐竹 一秀
(WEB公開:2017年7月1日)

ウナギ文化の危機

梅雨です。雨です。ただ晴れると蒸し暑いです。すでに夏バテです。こんな時はウナギを食べて体力を回復させましょう。土用の丑の日はまだ一月先で、少し気の早い話ですが…。

しかし、もうすぐウナギが食べられなくなるかもしれません。国際自然保護連合(IUCN)が出している「絶滅の恐れのある動物種(レッドリスト)」の2014年版に、ニホンウナギが絶滅危惧種として掲載されました。土用の丑の日にウナギを食べるという、日本の食文化が消えてしまいます。ウナギは熱帯を中心に19種類(16種3亜種)いて、日本周辺にはニホンウナギ、他にはヨーロッパウナギ、アメカウナギ、オーストラリアウナギ等がそれぞれの地域にいます。このうちヨーロッパウナギは既にIUCNのレッドリストに掲載されています。

  • image001.jpg

    ニホンウナギ

土用のウナギは日本初のコピーライト?

ウナギ(これ以降は特に断らない限りニホンウナギを指します)絶滅危惧の話の前に、まずは土用の丑の日の話です。江戸時代の中頃、博物学から蘭学、医学者そして浄瑠璃作者や書家として活躍し、エレキテルや火浣布(かかんぷ)の発明者としても知られる平賀源内が、知り合いの鰻屋から夏場の売り上げ不振を相談されました。そこで「本日、土用丑の日」の広告を大きく書き、店の前に張り出したところ、人目を惹き大繁盛したといわれています。他にもいろいろな説があるようですが、もしこの話が真実であれば、平賀源内はコピーライターの先駆者ともいえるのではないでしょうか。

土用は季節と季節のあいだ

そもそも土用とは、中国の陰陽五行説からきており、木土火金水の5要素をそれぞれ木は春、火は夏、金は秋、水は冬とあてはめ、残った土はそれら季節の間とし、それぞれ立春、立夏・立秋・立冬の直前約18日間にあてはめました。そのため土用は年4回あり、その18日間に十二支を割り振り、土用の子(ね)丑(うし)寅(とら)…。そのため、年によっては2回丑の日があり、その時は一の丑、二の丑と区別しているようです。ウナギ業界は2回あった方が嬉しいのではないでしょうか。今年(平成26年)は7月29日(火)1回です。

高ランクの絶滅危惧種

それではウナギの絶滅危惧の話に戻ります。上述の通り、国際自然保護連合(IUCN)の「絶滅の恐れのある動物種(レッドリスト)」の2014年版に、絶滅危惧ⅠB類(EN:近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの)として掲載されました。絶滅危惧のランクとしては既に絶滅した種を除くと、野生絶滅(EW)、絶滅危惧ⅠA類(CR)に次ぐ高ランクとなります。また、日本でも環境省から日本の絶滅のおそれのある野生生物の種のリストが発表されており、2013年の魚類についての第四次レッドリストでは、IUCNと同じランクの絶滅危惧ⅠB類とされていました。

ワシントン条約に記載されるかも?

このリストに掲載されたことで、すぐにウナギが食べられなくなることはないのですが、これとよく連動するワシントン条約というものがあり、こちらが問題になります。ワシントン条約は、自然のかけがえのない野生動植物の特定の種が過度に国際取引に利用されることのないよう保護することを目的とした条約で、正式名称は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora)」です。条約が採択された都市の名称をとって、ワシントン条約と呼ばれ、英文表記の頭文字をとってCITES(サイテス)とも呼ばれています。

ワシントン条約は1973年3月に採択され、日本では1975年4月に署名し、国内の調整等を経て1980年11月から発効しました。本条約には、先進国及び発展途上国の多くが加盟しており、2013年12月31日現在で179か国・地域が締約国になっています。この条約は、絶滅のおそれがあり保護が必要と考えられる野生動植物を附属書Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ3つの分類に区分し、附属書に掲載された種についてそれぞれの必要性に応じて国際取引の規制を行っています。

  • ・附属書Ⅰ:絶滅のおそれのある種で取引による影響を受けている又は受けるおそれのあるもの。
    オランウータン、ゴリラ、ジャイアントパンダ、ウミガメなど約1,000種
  • ・附属書Ⅱ:現在は必ずしも絶滅のおそれはないが、取引を規制しなければ絶滅のおそれのあるもの。
    クマ、タカ、オウム、ライオン、サンゴ、ランなど約34,000種
  • ・附属書Ⅲ:締約国が自国内の保護のため、他の締約国・地域の協力を必要とするもの。
    セイウチ(カナダ)、ワニガメ(米国)、サンゴ(中国)など約300種(日本では設定されていないようです)
留保もできるが…

本条約の規制対象は、生きている動植物のみならず、はく製やその一部、毛皮のコート、爬虫類の皮革製品及び象牙彫刻品等の加工製品も対象になりますので、気をつけなければなりません。また、条約加盟国は、附属書に掲げる種について留保ができ、留保した種については、締約国でない国として扱われます。現在、日本では、附属書Ⅰではマッコウクジラ、ツチクジラ、ミンククジラ、イワシクジラ、ニタリクジラ、ナガスクジラ及びカワゴンドウ。附属書Ⅱではウバザメ、ジンベイザメ、ホホジロザメ及びタツノオトシゴ属全種で、捕鯨やフカヒレ産業のために留保していると思われました。タツノオトシゴに関しては、漢方薬になるようですが、松島湾では激減しているとの話が聞こえていますので…。

ウナギは完全養殖ではない

それでは本題のウナギの現状です。鰻屋さんのウナギはほとんどが養殖です。天然物は流通しているウナギの0.5%未満です。また、養殖といっても、ヒラメやマダイのように完全養殖ではありません。シラスウナギという稚魚を日本や周辺の国々の河口部で捕獲し、そこから養殖場に放流し、餌を与えビニールハウスで保温したりして成魚にして出荷します。シラスウナギそのものも捕獲量は激減していますので、このままではやはり絶滅してしまいます。激減の原因としては、乱獲、河川環境の悪化、海洋環境の変化が考えられます。乱獲はウナギの消費拡大が原因です。最近は牛丼屋さんでも手軽にウナギが食べられます(これも一因かも…)。

環境の悪化

河川環境の悪化については、コンクリート護岸の整備によるウナギの好む岸際の隠れ場所の減少や、エビ、カニ、小魚などの餌動物の減少、河口域での化学物質等の汚染があり、ウナギの健康をむしばんでいます。また、海洋環境の変化については、地球温暖化によるエルニーニョ現象や海流の流路の変化があり、日本近海への移動疎外となっています。特に卵から孵ったばかりの仔魚(レプトセファルスと呼ばれています)は遊泳能力がほとんどないため海流に身を任せるしかなく、海流の変化によって日本近海に到達できなくなってしまいます。

養殖の可能性

ただ、ウナギの完全養殖の道筋もだいぶ見えてきたようです。実験室レベルで年間1,000個体程度の養殖には成功していますが、最大の問題はレプトセファルス(仔魚)の餌が解明されないとことにあります。もっとも産卵場所すらわかっていなかったため、実験のための卵を得ることができません。サケのように川を遡上して産卵するのであれば、産卵場所や産卵間近の親魚を捕獲して、卵や精子を得ることは容易ですが、ウナギの場合は海です。ウナギの祖先は深海魚とも言われていますので、産卵場所も深海…?そのため親魚の捕獲も困難ですし、ましてや卵や産卵直後の仔魚を見つけることも、不可能に近いと思います(思われました)。さて、ここからは「プロジェクトX」です。BGMに中島みゆきの歌を流しながら読んで下さい。

今から80年程前、1930年代にウナギの産卵場所調査が始まった…。
何年も何年も探し続けたが、卵はおろか仔魚すら見つけることができなかった…。
研究者の苦悩は続く…。
調査開始から半世紀、1991年にやっとレプトセファルス(仔魚)が捕獲できた…。
場所はマリアナ諸島西方海域…。
研究者は大いに喜んだ。が、まだ道半ば…。
さらに20年余り歳月が流れた…。
2008年に同じ海域で産卵した親ウナギが捕獲された…。
翌2009年にはついに卵が採取され、長年の謎であった産卵場所が完全に解明された。
(END)

さあ、次はウナギの完全養殖だ!

ニホンウナギ養殖とは別の動きも

完全養殖が進む一方で、別種のウナギの稚魚(シラスウナギ)を捕獲して、養殖すればよいのではとの動きもあります。フィリピンやインドネシア産のオオウナギ、オーストラリア産のオーストラリアウナギ、北米産のアメリカウナギなどが対象とされています。味については既に日本国内で試食されて、及第点が与えられたとの話もあるようです。これで本当に良いのでしょうか?ニホンウナギが取れなくなったから、外国産の違う種を持ってきて食べる…。

  • image002.jpg

    スナヤツメ
    (体型的にはウナギですが、
    ウナギの仲間ではありません)

ヨーロッパウナギが絶滅危惧種になったわけ

ここから怖い話をします。前述にヨーロッパウナギは既に絶滅危惧種に掲載されていると書きました。ランクは絶滅危惧ⅠA類ですのでニホンウナギより絶滅の危険度が高い種です。それではなぜヨーロッパウナギが絶滅危惧になったのでしょうか。15、6年前、ウナギ業界でヨーロッパウナギを中国に大量に輸入し養殖しました。そしてその加工品のほとんどを日本に持ち込み、そして日本で消費してしまいました。そうです、日本人がヨーロッパウナギを食べ尽くし、その結果としてヨーロッパウナギを絶滅危惧にしてしまいました。この話はあまり知られていないと思います。皆さんウナギの完全養殖が軌道に乗るまで、ウナギを食べるのを控えませんか? まるっきりやめてしまうと鰻屋さんも絶滅してしまうのですが…、何かの記念日の時だけ、そしてもちろんその時は日本産のニホンウナギを。

  • 【参考資料】
  • 塚本克己、黒木真理『クイズで学ぶ、ウナギの教科書 日本のうなぎ検定』(小学館、2014年)
ページの上部へ戻る▲