テクニカルノート

我が社のイソヒヨドリ!

文:佐竹 一秀 2015年5月1日
(WEB公開:2018年5月1日)

澄んだ大きな声
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イソヒヨドリ(♂)

職場の外から、鳥のさえずりが聞こえます。高く澄んだ大きな声で「フィー チョイチョイ ピー チョ…」と複雑に鳴きます。気になります、仕事に集中できません。3月頃から鳴いています。原稿に取り上げないから気になるのでしょうか?原稿にしてしまえば、気持ちも落ち着くのではと思い、書くことにしました。

正体はイソヒヨドリ

声の主はイソヒヨドリです。成鳥の雄は頭部から背、尾までの上面と、顔、喉から胸までが明るい青色で、腹から尾の下面までが赤褐色のきれいな鳥です(右上の写真参照)。雌は他の鳥類と同じで褐色の地味な鳥です(最終ページの写真参照)。

ヒヨドリと名が付いていますが、ヒタキ科に属するツグミの仲間で、大型ツグミと呼ばれるグループに含まれている鳥です。日本に生息する、大型ツグミの多くは「キョロン」と聞こえる声を組み合わせたさえずりをしますが、イソヒヨドリはそれらとは異なり、複雑で澄んだ声でさえずります。また、翼をひらひら羽ばたかせながらさえずったり、ゆっくり飛びながらさえずる独特のディスプレイフライトを行います。

街は岩場?

ツグミの仲間の多くは樹林地で生活していますが、イソヒヨドリは名前の通り、海岸の岩礁などの「磯」や港町などにいて、あまり樹林に入りません。海外では内陸の高山や岩場にいることも多いですが、日本では高山帯の岩場で見られることはほとんどありません。一方で、内陸部の市街地のビル街などにいることもあり、宮城県内では仙台駅、長町駅、愛宕橋周辺などで、以前から生息していましたし、内陸山地の鳴子温泉街でも1980年代には確認されていました。猛禽類のハヤブサがビル街を崖地とみなして繁殖している事と同じように、建物を岩場にみたてて生息していると思います。

また、本来の営巣場所は、岩の隙間や木の根元にできた穴等ですが、都市部の建物の隙間、とりわけ鉄骨が組み合わさり隙間の多い、駅や工場などは営巣環境として似ているため、その場所を利用していると考えられます。

内陸に多くなったのは震災の影響か
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イソヒヨドリが繁殖した倉庫のひさし

イソヒヨドリは近年内陸側での確認が多くなっています。この原因としては2011年3月の東日本大震災が考えられます。津波により沿岸部の建物のほとんどは破壊され、併せてイソヒヨドリの繁殖環境の多くも失われてしまいました。しかたなく内陸部に移動し繁殖するようになったと考えられます。

我が社は震災前には仙台市の中心部(中央2丁目)に事務所を置いており、その場所でもまれにですがイソヒヨドリの声や姿を確認する事がありました。震災後は現在の南仙台に事務所を移しました。移転は震災の年の6月、その時には、新事務所の敷地にも一つがいのイソヒヨドリがいました。その年の繁殖については特定できませんでしたが、2012年には事務所に隣接する物流倉庫で繁殖を確認しました。巣はひさしになっている場所の鉄骨の隙間に枯草を使って作られており、2013年にも同じ場所で繁殖しました。2014年は場所を変え、南隣の自動車学校の倉庫を営巣場所としていました。今年は…

イソヒヨドリの観察
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イソヒヨドリの巣

南仙台では一年中見られるかというと、そうでもありません。主に繁殖期の春から夏にかけてであり、冬は時折見かける程度です。我が社のイソヒヨドリ(勝手に我が社の所有物のようにしていますが…)は、3月になると雄が現れ、囀りを始めます。

その後3月下旬から4月頭に雌が見られるようになりますが、雌は何羽かが入れ替わっているようです。つがい相手が決まり、産卵は5月に入ってからのようで、その頃になると、雌は抱卵していますので、目撃する回数が減ります。

雛が孵る5月下旬から6月にふたたび雌も見られるようになり、つがいで忙しく餌を運ぶ姿が目撃されるようになります。餌は自動車学校の練習コースにある草地でとることが多いようです。巣は人やトラックが頻繁に出入りするところにあるため、人の出入りが多い時間帯には、餌を運べず困っている親鳥を見ることもあります。そのような状況でも雌は頑張って雛に餌を運ぶようですが、雄は無理に近づかないでいることも少なくないです(母は強し!)。

わざわざ人の出入りの多い場所に巣を造らなくてもいいように思いますが、きっと繁殖場所としては最適なのでしょう。あるいは、ツバメのように人の生活圏の近くに巣を作ることで、天敵から守ってもらおうと、適応しようとしている途中なのでしょうか。

「落ちている」小鳥は拾わないで!

雛は6月半ばから下旬に巣立ちますが、ほとんど飛ぶことができないうちに巣立ちますので、しばらくの間は地面にいます。このためネコやカラスなどの外敵に襲われることや、車に轢かれて命を落とす雛も多いようです。また、巣から落ちた迷子と勘違いした人が、親切心で連れ去ってしまうこともしばしば起こっているようです。

この時期に「日本野鳥の会」では雛を拾わないでキャンペーンを行っていますので、皆さんも、もし雛が落ちていても(落ちているのではなく、巣立ったのですが…)そのまま見守っていてください。雛の巣立ち後まもなく、家族で餌場である自動車学校付近で活動し、徐々に南側の住宅地に活動域が広がっていく様子が2013、2014年には観察されました。なお、2012、2013年にイソヒヨドリが営巣した物流倉庫のひさしで2014年にはハクセキレイが繁殖しました。

鳥も被災者かも?
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イソヒヨドリ(♀)

今回は、社内の鳥屋さん(鳥類調査担当のK・S氏)の観察記録等をもとに書いています。この時期には、K・S氏本人もあちらこちらの現場を駆けずり回っていますので、朝の現場に出る前や、夕方早く戻った時に観察しているようです。時間のない中で、ここまで見ているのですから、ものすごい観察眼です。イソヒヨドリ(鳥)の気持ちまでもしっかりと理解しているような…超(鳥)人的な能力の持ち主です。

震災前からイソヒヨドリが今の場所で繁殖していたかは不明ですが、もしかして被災者(鳥)かもしれないと思うと、一層親近感がわきます。沿岸部の防潮堤の工事や嵩上げは、まだまだ時間がかかりそうですので、本来の繁殖地に戻るのはもう少し先になるかもしれません。それまでは「我が社のイソヒヨドリ」として、しっかりと繁殖を継続していって欲しいですし、仕事の邪魔にならないくらいには、さえずりも聞かせてほしいです。これからもK・S氏をはじめ社員全員で、あたたかく見守っていきたいと思います。

※本記事は、NPO法人環境生態工学研究所発行のニュースレターに寄稿したものです。
※WEB用に多少表記を変えております。また、日付はニュースレターの発行日になります。


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