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そろそろ冬ごもりしたい…

2010年12月1日
文:佐竹 一秀
(WEB公開:2013年12月1日)

ブナの不作とクマの出没

今年はクマの出没情報が異常に多く、農作物への被害や人身事故も多発しています。一昨日も長野県伊那市の養鶏場がクマに襲われ続けているので、農場主が寝ずの番をしているとのニュースが流れていました。民家の庭先だけでなく、学校や役場の中に入ってきた映像を記憶している人も多いと思います。小学校へ行って子供達と一緒に勉強し、役場に住民票を出し、庭先で柿や栗を食べ、これで人に危害を加えなければ、ほほえましい出来事なのですが…。

11月8日に東北森林管理局から今年のブナ結実期の豊凶指数が発表されました。管内東北5県(福島を除く)ともに豊凶指数が0.7~0.2で「皆無」という結果でした。「皆無」は「凶作」以下ですので、山にはブナの実がほとんどない状況です。ブナの不作以外にも山そのものが荒廃し餌となる木の実が少なくなっているとの報告もありまし、それ以外にも、里地も荒廃していて藪が多くなり、住宅地の直ぐそばまで人に気づかれることなく近づく事ができるとの話も聞かれます。住宅地には餌がいっぱいありますので腹ぺこクマを誘引してしまいます。お互いに遭いたくない間柄なのですが、生活空間が一部重なってしまいました。

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    遠方のツキノワグマ

冬を乗り切るための着床遅延

そろそろ冬眠(冬ごもり)の時期ですが、餌が少ないので栄養が十分蓄えられずに、冬ごもりに入れないのではと心配になります。ツキノワグマは「着床遅延」といわれる繁殖法をとっています。これは6~7月頃に発情・交尾を行いますが、受精卵は直ぐに子宮に着床せずに卵管内にしばらく留まり、11月頃に母体の栄養状態がよければ着床し妊娠、よくなければ流産してしまいます。そのためにも冬ごもり前までに、いっぱい食べておく必要があります。その後冬ごもりに入り、1月中旬頃に1~3頭を出産します。

実際の妊娠期間は2ヶ月程度ですので、生まれてくる赤ちゃんの体重はわずか300gほどです。人間の赤ちゃんと比べると1/10程度ですので、超未熟といえます。このサイズでの出産ですので、安産ですしその後の授乳量も少なくてすみます。もし、人間と同じ大きさで出産したとすると、母乳がアッという間に無くなってしまい、おちおち冬ごもりもできません。それでは交尾を秋にすれば、着床遅延をしなくてもよいのではないでしょうか?ただ、秋は餌をいっぱい食べなければいけない時期です。この時期に配偶者を探して歩き回ったり、雄であれば雌を獲得するための戦いにも勝ち抜かなければなりません。そこに時間を掛けてしまえばその後の冬越しはできなくなります。まさに「色気より食い気!」ですし、着床遅延も必要です。

冬ごもり

クマ以外にも冬眠する動物はいっぱいいます。カエルやヘビなどの両生爬虫類、魚類、昆虫類は変温動物ともいわれ、外気温が低下すれば、体温も低下し活動できなくなり、冬眠してしまいます。哺乳類や鳥類は恒温動物ですので、外気温が低下しても体温は変化しません。そのため、キツネやウサギのように冬眠せずに冬を生き抜くものもいますが、クマのように冬季は餌が少ないので、秋までの間にエネルギーを蓄えて、冬眠するものもいます。冬眠の期間は体温を少しだけ下げてエネルギーの消費を抑えていますので、時々目を覚ますことができます。そのため、完全な冬眠というよりは冬ごもりという言葉のほうがピッタリきます(ぬくぬくとした温かさを感じさせる言葉で、個人的にも好きです)。

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    ちょっと近めのツキノワグマ!

異温性動物

また、コウモリ類やヤマネも冬眠する哺乳類として知られていますが、チョット違っていて、変温動物に近い冬眠のしかたをします。小型ですので体重の割合に表面積が大きいので、熱の放散が多いです。ただ、体が小さい分、狭い隙間に潜り込み、潜り込んだ場所で丸くなったりして冬眠します。この時には外気温より少しだけ高めの体温にすることで、エネルギーの消費を抑えます。変温・恒温動物に対して異温性動物といういいかたもします。

人間も異温性となり酷暑の夏は夏眠し、寒波の冬は冬眠することで、エネルギーの消費を抑え、地球温暖化を克服できると良いのですが。寒いなと感じる日も増えてきました。はやく冬ごもりしたい…

  • 【資料】
  • 熊谷さとし『動物おもしろ基礎知識』(偕成社,2006年),208-213,232-234頁
<参考>ブナの豊凶について

ブナの豊凶について以下に少し解説します。
東北森林管理局管内(福島を除く東北五県)の145地点(定点)で結実状況の調査を行います。調査方法は調査地点の森林を見渡して以下の判定基準にしたがって、区分・点数化して、その平均値が3.5以上で「豊作」、2以上3.5未満が「並作」、1以上2未満が「凶作」、1未満が「皆無」としています。

  • 多:ほとんどの木が結実→豊作→5点
  • 中:大径木を中心に約半数の木が結実→並作→3点
  • 少:僅かな木にのみ結実→凶作→1点
  • 非結実:全く結実していない→皆無→0点

宮城県では6地点で調査が行われ、3箇所が凶作、残りの3箇所が皆無でした。そのため、豊凶指数は1点×3箇所+0点×3箇所/6箇所=3/6=0.5となりました。ちなみに昨年(平成21年度)は並作(豊凶指数2.0)、20年度は凶作(1.7)でした。もう少し遡ると、19年度は凶作、18年度は皆無でした。また豊作年は17,12,7,2年度でしたので、今年(22年度)は豊作のはず…? 東北全体でも平成20年度は凶作、21年度は宮城の並作を除いて他は凶作となっており、ブナの実が少ない年が続いており、クマ達も厳しい!

詳細は以下参照。※林野庁で公開しているPDF資料です。
平成22年度のブナ開花時の結実予測と結実調査結果について
ブナ種子の豊凶状況調査

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