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都市生態系の最上位種は(人間ではなく)カラス!

2014年5月1日
文:佐竹 一秀
(WEB公開:2017年5月17日)

カラスが人を襲うわけは…

「カラスが人を襲う」とのニュースが流れる季節です。そうです、カラスの繁殖シーズンです。雛や卵を守るため、巣のそばに近づく人間に対して、攻撃を仕掛けます。そのような場合は近くに巣があるはずですので、その場から早々に立ち去ってください。けっして人が嫌いだからではりませんので悪しからず。

大都市に生態系があるかといわれるとかなり微妙ですが、食物連鎖(生態系ピラミッド)の上位にくる種は何でしょうか。一般的な生態系では植物(生産者)、動物(消費者)、そして分解者(菌類等)からなっていて、上位に来る種は猛禽類や肉食の哺乳類などの高次消費者です。その下層には小鳥や小型哺乳類、昆虫、両生爬虫類等の消費者がいて、その下にはそれらの餌となる植物(生産者)がいます。さらにその下層には、上位の種の死骸は排泄物を分解する菌類や土壌動物がいます。このピラミッドは下層に行くほど種類や個体数が増えるのが一般的です。

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    カラスの巣(津波により枯れた松に架巣)

都会の「生態系」

大都会東京の生態系について、人間を含めて不真面目に(おもしろおかしく)考えてみると、カラス(ハシブトガラス)が生態系の最上位にくるような気がしています。都会の消費者としては人間がいますし、その下にはスズメやツバメ等の小鳥、ドブネズミやゴキブリなど下位の消費者がいます。

本来の生態系であれば上位の人間と下位の小動物のあいだには食う、食われるの関係があります。スズメは場合によってはありですが、ネズミやゴキブリは…無理です。とても食べられません。その下の生産者と言えば、近郊の農地からから収穫された米や野菜ですが、食糧自給率が1%しかない東京では、それだけでは当然賄えません。日本各地や外国から食料を運んできて都会の生活(生態系?)を支えています。

さらにその下層には本来であれば動植物の死骸を土に返す役割をするミミズや土壌動物、菌類がいますが、アスファルトやコンクリートで覆われた都会では無理です。一部はコンポスト化施設、バイオマス発電所等で再利用されていますが、多くはごみとして焼却炉や埋立処分されていて、結局は外からのエネルギーを入れないと生態系のサイクルが回りません。

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    ハシブトガラス

実は最上位…?

そんな中にあって都会のカラスは人間が出したごみを餌にしています。見方によっては最下層の分解者と言えるかもしれませんが、人間が生産した生ごみを食べて生活している消費者ということもできます。そう考えると生態系ではカラスが上です。生物界の頂点にいる(と思っている)人間のさらに上にいるカラスはまさに都市生態系の頂点に君臨する最上位種です。東京都の人口1,323万(H25.4.1現在)が作り出した生ごみが、17,900羽(H24年度東京都環境局調べ)のカラスの生活を支えているともいえ、何とも不思議な気分です。

カラスは食料を得るために人間のようにあくせく仕事をする必要はありません。こんなことからも人間より上位と思えます。餌の心配がなければ、暇な時間が多いのではないでしょうか。人間も暇(と金が)があれば遊びますので、暇なカラスも遊んでいるようです。

遊びを楽しむカラス

次にカラスの遊びを少し紹介します。小石や小枝を掴んで、あるいは咥えて飛び上がり、上空で放して小石や小枝が地面に落ちる前に掴み取る。電線にぶら下がったブランコのように揺れを楽しみ、その後足を離して自然落下し、地上すれすれで反転し飛び去る。雪の上で羽をそり代わりにして滑る。お寺などで火のついたローソクを咥えて運び出す。線路に小石を置く。などなど。

数えるとキリがありませんが、笑えるものから、かなり危険なものまであり、楽しんでやっているようです。もう一つ、自動車を利用したクルミ割り行動について紹介しますが、これは遊びというよりはカラスの知能の高さを表していると思います。

カラスのクルミ割り

20年ほど前に、東北大学の仁平義明先生が東北大学川内キャンパス周辺で観察した結果を論文にまとめたものです。私なりに脚色して書きますので、興味のある方は資料に示した論文をあたってください。

カラスはクルミを食べたくても殻が硬くて嘴では割れません。そのため、最初はクルミを上空から落として割って食べていました。しかしそう簡単には割れません。遊び感覚だったのかも知れませんが、何度も何度も繰り返してやっと割れるような状況でした。それに比べて、車に轢かせれば高い確率で割ることができます。道路上にクルミを落としたところ、タイミングよく車が通り、殻が割れた。それをヒントに、クルミを道路上に置いて、車が轢くのを近くで待っていた。しかしうまく轢かれない場合もあり、車(タイヤ)が良く通る位置に置きなおした。

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    ハシボソガラス

カラスの観察力

ここまででも凄いことですが、さらにすごいことを考えました。それは、タイヤの直前に置く、あるいは投げ込む、さらにはスピードを落とした車の前に飛び出し、車を止めてからタイヤの直前に置く。まさに命がけですね。そうしているうちに、車がある場所でよく停まることに気が付きました。そうです、信号機の前です。赤信号で停車している前に置くことで、安全かつかなりの高確率で割れます。ほんとにカラスはすごい。その後、この自動車を利用したクルミ割り行動は山形や岩手でも確認されたとの情報もありますが、20年ほど前の話です。最近はどうなっているのでしょうか。川内キャンパス付近を日頃から移動等で利用されている方がいれば、是非教えて欲しいです。

ブトとボソ

今まではカラスと一言で片づけてきましたが、ハシブトガラス(以下ブトと呼びます)、ハシボソガラス(以下ボソと呼びます)の2種が日本にいるカラスの代表格です。識別点は読んで字のごとく嘴が太いか細いかです。2羽並んで止まっていれば、比較できますが、ふつうは仲良く並んで止まることはありませんので、1羽ずつ見るときにどうするかです。

見分け方いろいろ

見慣れてくれば解るのですが、その場合はオデコを見るとある程度わかります。デコが出ているのがブト、出ていなければボソです。写真を示しますので比べてみてください。また鳴き声も参考になります。カーカーと澄んだ声はブト、ガーガーと濁った声はボソです。鳴いている姿を見かけたら、さらに解りやすいかもしれません。酔っぱらいのおじさん(おじさんでなくてもいいのですが)が、吐き気を催して前かがみになって苦しそうな姿で鳴いているのがボソです(参考になりましたか…)。

主な生息地も違っています。都市にはブト、近郊の農地周辺にはボソが主に生息しています。「ゴンベが種まきゃカラスがほじくる」というのは、ボソで、地面を歩き回って餌を探すタイプです。ブトは高いところ樹上や電柱、ビルの上から、下を見回して餌を取るタイプです。前述の都会のカラスの話はブト、クルミを車に轢かせる話はボソです。その他、ここ10年くらいまえから冬季にミヤマガラスやコクマルガラスなるカラスが朝鮮半島や中国大陸から渡ってきます。また、オナガ(上の写真)やカケス等、黒くないカラスの仲間もいます。

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    オナガ(カラス科)

七つの子

最後に童謡で心を癒してください。カラスをうたった童謡といえば、そうです「七つの子」です。

カラスなぜなくの……
カラスの勝手でしょう!

というのは、1980年代のテレビ「8時だよ!全員集合」のなかでドリフターズの志村けんが替え歌として流行らせた歌です。あまりにも流行ったので、元歌を忘れた人もいるかもしれませんね。以下に紹介します。

「七つの子」作詞:野口雨情
からす なぜなくの からすはやまに
かわいいななつの こがあるからよ
かわいい かわいいと からすはなくの
かわいい かわいいと なくんだよ
やまのふるすへ いってみてごらん
まるいめをした いいこだよ

ここで生き物屋としては疑問がわきます(話がさらに長くなってしまいスミマセン)。
「七つの子」ですが、7歳の子、あるいは7羽の子ガラスでしょうか。カラスは2~3年で繁殖可能な成鳥となりますので、7歳では子ガラスとはいえません。それでは7羽の子ガラスでしょうか。ブト、ボソ共に産卵数は3~5個が多いということですので、一つの巣に7羽の子ガラスは多いです。7歳の子ガラス、7個体の子ガラスのどちらも変です。

真相は、野口雨情が職探しの長い旅に出ることになり、7歳になる息子と別れなければならず、その時の心情を子カラスに託して歌にしたということのようです。話がだいぶ長くなってしまいましたが、カラスの話はまだまだつきません。そのうちに続編を書きたいと思います。それでは皆さん、くれぐれもカラスの巣に近づかないように。

  • 【参考資料】
  • 仁平義明『ハシボソガラスの自動車を利用したクルミ割り行動のバリエーション』(日本鳥学会誌44、1995年)、21-35頁
  • 杉田昭栄『カラスなぜ遊ぶ』(集英社、2004年)
  • 佐々木洋『カラスは偉い 都会のワルが教えてくれること』(光文社、2001年)
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