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子どもゆめ基金体験活動「自然環境調査体験プログラム2023」ご協力報告

2023年9月27日
文:環境企画課 小池 花苗

「自然環境調査体験プログラム2023」ご協力報告

恒例イベントとなりつつあります株式会社青葉環境保全さん主催の環境教育プログラムに講師としてご協力させていただきました。本プログラムは、生き物好きの高校生を対象とした自然環境調査の体験活動です。現地調査、同定・計測、とりまとめ作業を通じて生物調査の仕事を経験して頂きます。

3回目となる今年は時期・天候に恵まれ、雨予報も雨は降らず、日の差す調査日和の中、無事に全日程を終えることが出来ました。ご参加頂いた高校生の皆さま、運営サポートをして頂いた仙台ECO動物海洋専門学校の皆さま、そして主催の株式会社青葉環境保全の皆さまにお礼申し上げます。

○プログラムの概要

宮城県内の高校生を対象に、2日間の活動を通じて環境調査の仕事を体験してもらうプログラムです。名取市樽水ダム周辺を調査地とし、1日目は生物調査と同定作業を行いました。2日目には、現地で確認した種の形態・分布・生態・確認状況などをまとめた「調査票」を作成するワークショップを開催しました。

  • ■1日目:2023年6月24日(土) 専門班ごとの現地調査と種の同定作業
  • ■2日目:2023年6月25日(日) 調査票作成ワークショップと講義「生物多様性と生態系サービス」
  • ■参加者:高校生18名
  • ■専門班:①植物 ②鳥類 ③魚類・底生動物 ④両生類・爬虫類・哺乳類 ⑤昆虫
  • ■調査地:宮城県名取市樽水ダム

○イベント前日

イベント前日にはエコリスの調査員がトラップを仕掛け、一晩設置しました。哺乳類(ネズミ類)、魚類については事前に鳥獣捕獲許可、特別採捕許可を取得しています。現地踏査で直接実物を採集、観察することが難しい生き物も、各々に効果的なトラップを用いることで捕獲出来ます。

  • ・哺乳類は、ネズミ類が対象のシャーマントラップを2か所に各20個以上、夜行性の哺乳類を対象としたセンサーカメラを2台設置しました。
  • ・昆虫は、夜間に灯りに飛来する性質のある種群を誘引するライトトラップ、地表を徘徊する種群を対象に餌で誘引するベイトトラップを設置しました。
  • ・魚類は、夜行性の大型魚類の捕獲を目的に、ミミズを餌とした針を10本付けたはえなわ、定置網を樽水ダム流入部の増田川に設置しました。
  • 哺乳類シャーマントラップ

  • 哺乳類センサーカメラ

  • 昆虫ライトトラップ

  • 昆虫ベイトトラップ

  • 魚類はえなわ・定置網

1日目:樽水ダムでの現地調査

2023年6月24日(土)8時、樽水ダムB公園に集合しオリエンテーションが始まりました。自己紹介の後は、植生図(現存植生図)の解説です。地図上に植物群落の分布を示した植生図は、さまざまな環境調査の下地となります。今回の調査体験では、現地で確認した種の生態情報を調査票カードにまとめ、植生図上に表示することで、ダム周辺のどのような環境にどのような種群がいたのか理解することがゴールとなっています。

  • オリエンテーション

  • 植生図の解説

  • 樽水ダム現存植生図

○トラップ回収

続いて、前日に仕掛けたトラップを全員で確認します。トラップの近くに移動し、設置されている実物を見ながら解説を聞きます。哺乳類用のシャーマントラップではアカネズミやジネズミが捕獲され、センサーカメラにはキツネやタヌキなどが撮影されていました。昆虫用のライトトラップではボックスの中にモモスズメやゴマフキエダシャクなどが、ベイトトラップではアオオサムシやオオヒラタシデムシなどが確認されました。魚類のはえなわにはナマズが2匹かかっていました。定置網には残念ながら魚は確認されなかったものの、クサガメが入っていました。

  • トラップ解説

  • アカネズミ

  • スギ植林のキツネ

  • ベイトトラップ

  • はえなわとナマズ

トラップの回収後は各専門班にわかれて調査開始です。以下、植物の講師を担当した合田に植物班の様子と感想を聞いてみました。

○現地調査~植物班の様子~

『雨予報が一転して日差しの中での調査となりましたが、学生の皆さんは暑さに負けず最後まで元気に同行してくれました。植物班では草原や湿地、スギ植林の林内、林道沿いなど、調査地内の様々な環境を歩きながら植物の観察や採取を行いました。学生の皆さんには日当たりや水環境の違いによる植物相の変化を感じていただけたかと思います。調査中、学生の皆さんが「なぜ植物には毛が生えているのか?」「なぜネムノキは"ネム"ノキというのか?」「この植物は食べられるのか?」など、様々な疑問を投げかけてくれたことが印象的でした。意欲的な姿に感激するとともに、私も学生の皆さんの質問から新たな気づきを得ることができました。図鑑を使っての同定作業は難しかったかと思いますが、検索表を使うことで植物をより詳細に観察することができたのではないでしょうか。

今回の調査では、葉や実を食べてみたり、匂いを嗅いでみたりして五感を通じて植物の特徴を体感することもありました。植物は気に留めなければそれまでですが、よく観察してみると色や感触、におい、味など興味深い特徴に気づくことがあります。学生の皆さんには、今後は自分が「面白い」と思う視点で身の回りの植物に注目し、植物観察を楽しんでいただけたらと思います』

  • 植物の観察

  • ホタルブクロ

  • ハナイカダ

  • 両爬哺班・フィールドサインを観察
    (写真・青葉環境保全)

  • 両爬哺班・フィールドサイン (糞)

  • 鳥班・双眼鏡で観察

○同定作業~魚類・底生動物班の様子~

午後はエコリスの事務所内で同定作業を行いました。各班、撮影した写真や持ち帰ってきた標本を机に広げ、図鑑と見比べます。

魚類・底生動物班の様子です。まずは魚の観察から。個体数や体長区分の計測は現地で行っているので、室内では持ち帰ってきた個体をバットや水槽に入れて同定形質などを観察します。講師からは、樽水ダムで採れたカジカのほか宮城県にはハナカジカという近縁種がいることやその2種間の形態の違い、ナマズの元々の分布域は西日本でありここ東北には江戸時代以降に入ってきた国内外来種であることなどなど…2日目のワークショップで作成する調査票に必要な情報を交えた解説がありました。

私が担当した底生動物では、現地で採集されたもののうち肉眼で見えるような大きい種群をいくつか持ち帰り観察しました。とはいえ5㎜~数cm程度と小さいので、1種ずつタッパーに分け、手に持ちながら間近に見てもらいます。今回採れたコシボソヤンマは、手に取ると腹部を反らせて死んだふりをする特徴があります。似たような環境に棲むミルンヤンマも同様の行動をとりますが、こちらは腹部を真っ直ぐにしたままです。ミルンヤンマは採集されなかったのでこちらは図鑑の写真を見つつ、コシボソヤンマを実際につついて違いを観察しました。瀬でたくさん採集されたヒゲナガカワトビケラは、一部地域で漁業権の対象になっている珍しい川虫です。私の地元である長野県では佃煮にして食べる文化があり、これがかなり美味しいご飯のお供でして私は大好きです。また、幼虫は川底の石に巣網を張って生活するのですが、この際幼虫が吐く糸が再生医療の材料として注目されていたりします。同定作業から逸れた解説でしたが、2日目の生物多様性と生態系サービスの講義内容にも繋がるのでセーフ?でしょうか。

同定を終えると、現地で見つけた魚類・底生動物から各自1種ずつ生き物を選びました。選んだ種は2日目のワークショップで調査票を入力する対象種になります。各々推し種を選び、調査票用に写真撮影をしたり、じっくり観察したりして本日の活動は終了です。作業後は他班の様子を見学していかれる方々もいました。

  • 水槽に入れて魚を撮影

  • ナマズを観察(写真・青葉環境保全)

  • 調査票作成の担当種決め

  • 両爬哺班・頭骨を触ってみる

  • 昆虫班・写真と見比べて同定

  • 植物班・図鑑の解説を確認

2日目:調査票作成ワークショップ

2023年6月24日(日)9時、東北大学環境科学研究科「エコラボ」をお借りして開催しました。エコラボは、県内産の木材を使用した地産地消の建物です。名前に「エコ」が入っているとおり環境負荷を下げるエネルギーシステムを採用しており、ZEB※認証を受けるに至っています。

※ ZEB:net zero energy building. 建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物。
施設のご紹介 | 東北大学大学院 環境科学研究科

○生物のスケッチ

ワークショップでは、前日の現地調査で確認された種の調査票を各自2種分作成します。調査票には形態・分布・生態・現地での確認状況・特記事項の欄があり、形態欄にはスケッチスペースがあるので、種の特徴がわかるようにスケッチ、着色をしてもらいました。

各専門班に分かれスタートです。図鑑や昨日撮影した実物の写真、標本、講師からのアドバイスなどを参考に調査票を記入していきます。高校生の皆さんが一番熱を入れていたのがスケッチでした。同定ポイントに注目しながら形態を写し取っていきます。全体図のほか、顔や背ビレなど同定の際に重要になる部分をアップで描き添える人もいました。色も皆さんこだわっており、色鉛筆を何色も使いわけながら現地でみた体色を再現していました。途中、休憩におやつタイムを挟んだのですが、熱心に取り組むあまり休憩を挟もうとしない方もいるくらいでした。本イベントは今年で3年目、ワークショップは毎年異なる内容を実施してきましたが、今回の調査票作りが一番高校生の皆さんの盛り上がりと自主的な姿をみることが出来たようにと思いました。見て同定するだけより種の特徴をより捉えられる点も良かったかもしれません。

  • ワークショップスタート

  • 図鑑や写真を見ながらスケッチ

  • 講師から生態のアドバイス

  • 絵葉書みたいにきれいです

  • オイカワの婚姻色を表現

○調査票の発表

続いて、発表の時間です。予定では作成した調査票を植生図上に貼ることで樽水ダムの生き物マップを作成するつもりでしたが、予想以上に調査票の作成が盛り上がったためマップ作製は省略し発表のみとなりました。プロジェクターで調査票を映し、高校生の皆さんには担当した種について名前や特徴、現地のどのような環境で確認されたかなどをコメントして頂きました。調査票の中で個性が現れたのが特記事項欄です。魚類では食材としての利用や味に触れる人が多かったほか、カジカガエルは声が綺麗で俳句の題材にされている、ニホンリスはカワイイといった文化的な側面や感想に焦点をあてた内容などがみられました。

  • 採集個体の体色を忠実に表現

  • リスはカワイイ

  • 背景に生息環境を書き込みました

○生物多様性について

最後に、ワークショップのまとめとして弊社講師から「生物多様性と生態系サービス」という題名でレクチャーを行いました。なぜ生物の多様性が必要なのか、私たちは生活の中で生態系からどんな利益を得ているのかといった解説から、生物保全の必要性について考える内容です。時間が押してしまったため駆け足の解説となってしまいましたが、本講義およびプログラム全体を通じて、自然環境調査がなぜ行われているのか、今後、自分がどのように生物と関わっていきたいかなどを考えるきっかけになればと思っています。2日間大変お疲れ様でした。

  • 生物多様性と生態系サービスについて

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