テクニカルノート

植物界の「災害遺産」ミズアオイを知る連続ワークショップ・スタッフ参加報告

2021年4月7日
文:環境企画課 中川 美知子

1.ミズアオイを震災復興のシンボルに

東日本大震災の後、津波を受けた岩手、宮城、福島の沿岸地域に突如として青い花の大群落があらわれ、多くの人を驚かせました。大きな話題になりましたので、震災から十年が過ぎたいまでも記憶に残っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。その花こそ、環境省レッドリストで準絶滅危惧(NT)に指定されている「ミズアオイ」です。

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    ミズアオイの群落

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    ミズアオイの花

2019年秋、このミズアオイを「災害遺産」、すなわち震災からの復興のシンボルとして人々に知ってもらい、生物多様性の保全と防災についての意識を高めるための環境ワークショップ、『植物界の「災害遺産」ミズアオイを知る連続ワークショップ』が開催されました。このワークショップは日本ビオトープ協会が主催し、仙台市の「杜の都の市民環境教育・学習推進会議(FEEL Sendai)」からの委託事業として行われたものです。

生きた震災遺構として

現在、震災遺構として保存されているのはコンクリートの建築物がほとんどですが、津波によって復活したという特性をもつミズアオイもまた、震災の記憶を後の世代へと引き継いでいく遺産となりえるのではないか、という提案です。「第一回 EAT ミズアオイを食べる」は、ミズアオイの生育地を現地観察し、ただ花を愛でるだけではなく、万葉集の時代にならって調理して味わってみようという企画。「第二回 DIG 津波堆積物と種探し」では、地中の津波堆積物の地層を観察し、そこから古い時代のミズアオイの種を探してみよう、という企画です。株式会社エコリスは、スタッフとして、企画者の元岩手県立大学教授平塚明先生にご協力し、開催の告知から準備、当日の運営等を行いました。ここではその準備を通じて学んだこと、そしてワークショップ当日の様子をご報告します。

2.ミズアオイの栽培―抵抗性と感受性―

連続ワークショップ第一回のテーマは「EAT」、ミズアオイを食べる、です。食材として利用するため、ミズアオイを種から無農薬で栽培しました。

ミズアオイはかつて水田雑草として全国に広くみられましたが、除草剤の使用などにより個体数が減少し、絶滅危惧種に指定されるに至りました(ただし、ワークショップ開催地の宮城県ではレッドリストから外されています)。しかし近年、1990年代から除草剤に抵抗性をもつものが増加しています。一方、震災によって出現したミズアオイを調べると、除草剤への抵抗性をもたない(=除草剤への感受性がある)ことがわかりました。これは、震災後に現れたミズアオイが近年のものではなく、除草剤への抵抗性を獲得する以前の、過去の埋土種子が発芽したものであることを意味します。ワークショップでは、この二系統のミズアオイをそれぞれ「抵抗性」「感受性」としてわけて栽培し、食材として使用しました。

6月末、種まき

2019年6月末、種子からミズアオイの栽培を開始しました。まず、水温25度・水中(嫌酸素)・明条件で発根を促します。発根が確認されたら、次は一粒ずつ、種まき用のプラグトレイに播種していきます。このとき、3㎝以上の深さには植えないようにします。ミズアオイの種子はごく小さく、1㎜ほどしかありません。種自体の力があまりないため、3㎝以上の覆土があると地表に出てくることができず、発芽に失敗します。

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    容器内で発根したミズアオイの種

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    プラグトレイに播種

ミズアオイが津波で復活した理由

この「3㎝以上の覆土では発芽できない」という欠点ともいえる要素が、ミズアオイが津波で復活した理由です。また、水田でよくみられる理由でもあります。地中に埋まったミズアオイが発芽するためには、何らかの力による攪乱によって種が地表近くに出てくることが必要なのです。市街地においては人の手による田起こしや耕うん、自然界においては、津波がそれを担ったものと考えられます。

プラグトレイに蒔いた種子は感受性、抵抗性それぞれ400個程度です。これは腰水で管理し、乾燥させないようにしました。しかし発芽に至らなかった種子も多く、幼苗の特徴である披針形の葉から、心臓形の本葉を出すくらいまで成長し、プランターへの移植まで至ったのは各タイプそれぞれ50株ほどでした。

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    幼苗の葉は披針形

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    プランター栽培した抵抗性個体

優性形質は抵抗性

8月、プランターへ移植するタイミングで抵抗性の苗を他の場所へ移動しました。これは、感受性のミズアオイ苗については、食べるだけでなく種子の収穫も行う予定だったための措置です。除草剤への抵抗性は優性形質であるため、感受性と交雑すると種子はすべて抵抗性になってしまいます。平塚先生の調査によると、地域によってふたつのタイプの割合は異なり、岩手県・福島県には感受性個体が現存していますが、宮城県の個体はほぼ抵抗性個体だそうです。

光と植物の背の高さの関係

種まき時期がやや遅かったこともあり、プランターでの栽培個体は最終的に野生の個体と比べるとだいぶ小ぶりになりました。水田でみられるミズアオイは直立し、背が高いですが(記事冒頭2枚目の、「ミズアオイの花」の拡大写真をご覧ください)、プランターでは茎が立ちあがらず、横に広がっていく姿が観察されました。一般的にミズアオイときいて思い浮かべる水田での姿は、稲と競争する必要からとられた形態であり、まわりに何もない場所であれば横に広がってより多く日光を浴びたほうが効率的です。ミズアオイは生育環境(遮光と水深条件)によって表現型形質が比較的大きく変化するそうですが、栽培によってそのことを実際に確かめることができました。

3.告知チラシの作成

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    ワークショップ開催告知チラシ

ミズアオイの栽培と並行して、ワークショップの開催を市民のみなさんへ周知するため、告知チラシを作成しました。ミズアオイの花の色である青をテーマカラーとして、ミズアオイの上品さを表しつつ、気軽にワークショップへ参加していただけるようデザインしました。

告知チラシはウェブ上のほか、仙台市の施設各所にも置かせていただきました。ご協力ありがとうございました。

4.ワークショップ―第一回 EAT ミズアオイを食べる―

2019年9月8日、ワークショップ第一回当日は定員20名を少し越える参加者が集まりました。会場は仙台市若林区のせんだい農業園芸センターをお借りしました。参加者のみなさんが沿岸部のミズアオイ生育地を見学に行っているあいだ、エコリススタッフはお料理です。メニューは、かきあげ、お吸い物、おにぎり、おひたしです。感受性個体は収穫できた量が少なかったため特別に単体でおひたしにしました。

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    沿岸のミズアオイ生育地

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    現地観察した花

万葉集の時代の食材だったミズアオイ

ミズアオイは奈良時代には食べられていたことがわかっています。万葉集にも歌が残っており、身近な食材だったようです。大昔の水田は稲だけではなく、さまざまな種類の植物を一緒に育て、食べていたようですが、現在のミズアオイが水田雑草とされていることからわかるとおり、特においしいものではありません…。実をいえばミズアオイが登場する万葉集の歌にも「我にな見えぞ水葱の羹」(ミズアオイの吸い物なんて見せてくれるな)とあるくらい、食材としての味は古代から少々難あり、だったようです。

ともあれ、実際に食べてみる、ことには大いに意義があります。ほうれん草などの現代の葉物野菜に慣れていると、味がない、と感じますが、その代わり、えぐみやくさみもありません。そこでこのワークショップでは、かきあげとお吸い物に関してはたまねぎやにんじん、まいたけやしめじなどをメイン食材としてミズアオイは脇役になってもらい、ミズアオイそのものはおにぎりとおひたしで味わってもらうことにしました。

ミズアオイの味

ミズアオイは束ねて塩ゆでし、お吸い物には葉の部分、おにぎり用には茎の部分を主に使用しました。白米と混ぜると、刻んだミズアオイのみどりが目に鮮やかで楽しく、また食感も良かったようです。おひたしは小さめの個体だったのが功を奏して柔らかく、食べやすく仕上がりました。

おにぎりは参加者のみなさんに握っていただきました。スタッフ用のごはんをとりわけておくのを忘れるという痛恨のミスがあったのですが、みなさんすべて完食して帰られたので、味は大丈夫だったようです。これには料理に不慣れなスタッフ一同もほっとしました。

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    食材に使用したミズアオイ

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    ミズアオイ料理

ミズアオイの花が終わった、そのあと
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    翌年も咲いたミズアオイ

余った抵抗性ミズアオイの苗は、参加者のみなさんにおみやげとして配りました。私も二株持ち帰りましたが、ワークショップ当日、すでに開花しはじめていたミズアオイはその後もさらに花を咲かせ、やがて結実して三角錐型の果実をつけました。実をつけた花茎は、倒れて下方をむきます。これは果実が水につきやすくするためで、本来はこの後、果実は果柄から離れて水面を漂い、水中に沈むと裂開して種子を落とします。そしてそこが(うまく条件が揃えば)来年のミズアオイの発生地になります。小さなプランターでは残念ながら新天地へ漂っていくことはできませんが、また次の夏、発芽してきれいな青い花をみせてくれるのを楽しみにしています。

※2020年の夏にもおなじプランターで発芽、開花に成功しました。

5.ワークショップ―第二回 DIG 津波堆積物と種探し―

連続ワークショップ第二回は2019年10月20日に行われました。雨天決行の予定でしたが、幸いにも当日は天候に恵まれ、よい穴掘り日和となりました。

地層の観察

この回では、仙台市地下鉄荒井駅そばの地面を掘って地層を観察し、そこで採取した土壌に埋土種子が含まれていないかを調べました。荒井地区のその場所には、地表から30~40㎝と浅いところに弥生時代の津波堆積物である砂の層が存在します。地層については東北学院大学教授松本秀明先生にお越しいただき、解説と指導をしていただきました。

まず検土杖で見当をつけ、シャベルで幅1m程度の穴を掘ります。穴掘りに関しては松本先生の教え子である大学生のおふたりが活躍してくれました。現れた地層は、上層の現代の耕作による攪乱地の下から色が変わり、いくつかの層になっていることがみてとれました。特に津波堆積物だという砂の層はくっきりと白く目立ちました。

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    検土杖での試掘

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    現れた地層

津波や噴火の痕跡が地層には残っている

仙台平野で知られている津波堆積物は弥生時代のもののほか、西暦869年の貞観地震津波の堆積物、西暦1611年の慶長津波の堆積物などがあります。2011年の東日本大震災のものを含め、代表的な津波堆積物の分布状況を比較すると、約2000年前の弥生時代のものが最も内陸への遡上距離が大きな津波だったとわかるそうです。また、余談ですが西暦915年(平安時代)に発生した十和田湖の噴火の火山灰が仙台平野に降り注いだことも確認されているというお話もありました。過去のさまざまな自然現象(災害)を経て、現在あるような地形が形成されていることを感じた現地調査でした。

埋土種子はリスク分散

土壌の採取では、ミズアオイ種子が埋まっている可能性のある津波の「上」部分を基本的に選びました。東日本大震災での事例と同様、津波による攪乱によって復活し、大群落をつくったミズアオイの種子の多くが、そのまま埋土種子として眠っているものと考えられるからです。

埋土種子として休眠することは、植物の時間的リスク分散の手段といいます。一年草であるミズアオイはその年のうちに花を咲かせ、種子をつける必要があります。もし、天候や自然災害などの理由で地上にあるすべてのミズアオイが種子をつけるまえに枯れてしまったら、そこで種が絶えてしまうことになります。そのような事態を回避するため、埋土種子集団(シードバンク)として休眠し、環境が整い、発芽のチャンスが訪れるのを待ちます。大賀ハスのように二千年も眠っていた種子もありますが、ミズアオイが発芽能力を維持したまま休眠できる期間は、およそ60年ほどだそうです。

ひとり一袋ずつ土を採取し、せんだい農業園芸センターに移動して、埋土種子分析(種探し)の開始です。

種子を探して

種探しはふたり一組で実施しました。目的のミズアオイ種子は1㎜ほどと小さいので、それより大きな砂や石を水で洗いながらザルでとりのぞきます。津波堆積物付近の土はこまかく、ここで廃棄できた量はほんのわずかでした。ザルを通過した残渣には種が含まれている可能性があるので、洗浄ビンでこまかい汚れを落としながら、ピンセット、ルーペ等を使って種子らしきものを探します。怪しい物体を発見したらシャーレにとり、実体顕微鏡で詳しく調べます。

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    埋土種子探し

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    実体顕微鏡での調査

種子発見!

参加者およびスタッフで3時間ほど調査を行いました。結果、参加者のおひとり(底生動物を専門にされているそうです)が見事コナギらしき種子を発見、中身のない殻を含めて合計三粒を発見されていました。実体顕微鏡で観察した埋土種子は俵型で、まさに図鑑とおなじ姿をしていることに参加者およびスタッフ一同、感動を覚えました(※同じ層について、別の日の分析ではミズアオイ種子が見つかりました)。 このほかにも、種不明の種子や殻がちらほらと発見され、調査した面積と時間を考えると、調査地の一帯にはかなりの数の種子が埋まっていると考えられるそうです。

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    発見された埋土種子(コナギ?)

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    後日発見の埋土種子(ミズアオイ)

種子探しは非常に難しいため、一粒も発見できずに終わる可能性もありました。短い時間のなか、種子が発見できたことは非常に幸運だったと思います。植物界の「災害遺産」ミズアオイを知る連続ワークショップはこうして無事、終了しました。

6.パネル展示

ワークショップ終了後、2019年12月7日に仙台メディアテークで開催された「環境フォーラムせんだい2019 知って得する環境学習~新しい時代!環境をもっと身近に感じよう~」にて、活動報告が行われました。平塚先生のご提案と構想のもと、エコリスではパネルポスターに使用する簡単なイラストを提供させていただきました。

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    環境フォーラムの様子
    (平塚先生撮影)

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    展示ポスター

7.最後に ミズアオイが象徴する多様性のあり方

ミズアオイという植物の生態や生育環境から、人と自然との関わり、生物多様性のあり方についてさまざまなことを考えさせられたワークショップでした。人の営為によってつくられた水田地帯がたくさんの生きものの棲み処となっているように、そして放置された里山からかつてそこに生息していた生きものが次々と姿を消しているように、自然の豊かさをかたちづくるのは必ずしも原生の自然にかぎらないのではないでしょうか。人の手が加わってこそ維持される独自の生態系もまた、多様性のひとつと考えます。

安定的に発芽し、群落を維持するためには人の手による土地の攪乱を必要とするミズアオイ。過去、津波のたびに復活してきた可能性のあるミズアオイは、震災からの復興のみならず、これからの人と自然の持続的な関わり方を象徴するにふさわしい植物であると感じました。

参照リンク

平塚明先生HP:植物界の「災害遺産」ミズアオイを知る連続ワークショップ

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