テクニカルノート

ウミツバメ科の鳥類はいつ・どこで見ることができるか?

文:動物調査室 清水 博之
2019年2月1日 2018年調査記事公開
2020年7月27日 2019年調査結果追記

はじめに

海鳥の中でも小型の種群であるウミツバメ科 Hydrobatidaeは、太平洋や大西洋、インド洋、南極海に広く分布し、日本周辺では8種のウミツバメ科が確認されています。

日本で確認されているウミツバメ科のうち、ヒメクロウミツバメ Oceanodroma monorhis (Swinhoe, 1867)は、世界的に見ても日本の周辺(日本、韓国、中国等)でのみ繁殖する、いわゆる'固有'な種と言えます。また、クロコシジロウミツバメ O. castro(Harcourt, 1851)は、日本のほかハワイやガラパゴス、大西洋に繁殖地が知られていますが、近年は地域ごとに独立した種として扱われることがあります。それに従えば、日本の繁殖個体群も独立種となり、ヒメクロウミツバメと同様に'固有'な種であると言えます。勿論、南硫黄島でのみ繁殖が確認されているクロウミツバメ O. matsudairae(Kuroda, Nagamichi, 1922)についても'固有'な種に該当します。

これら日本固有のウミツバメ類は、観察できる地域が限られている貴重な種であることから、国内のみならず海外のバードウォッチャーからの関心も高いのですが、いつ・どこで観察することができるのか、といった情報は、一部の種を除いてほとんどありません。そして、観察機会の少なさ故に、生態や類似種との識別点などについては、まだまだ未知の部分が多くあります。観察機会が少ない要因として、日中を遠洋で過ごすといった生態的特性や、そもそもの生息個体数が少ないといったことが挙げられます。また、国内では従来、海鳥を観察する人が少なく、情報が乏しかったことも要因の一つと考えられます。

そこで、日本固有のウミツバメ類の中でも特に情報が乏しい、ヒメクロウミツバメとクロコシジロウミツバメの2種を対象として、洋上における確度の高い観察機会を作ることを目的として調査を実施しました。

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    ヒメクロウミツバメ

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    クロコシジロウミツバメ

調査地域・時期

○ヒメクロウミツバメ

ヒメクロウミツバメの繁殖地は、太平洋側と日本海側の複数の無人島で確認されています。
このうち、日本海側における最大の繁殖地、京都府沓島の周辺(京都府舞鶴市)を本種の調査地域としました。

○クロコシジロウミツバメ

クロコシジロウミツバメの繁殖地は、岩手県沿岸部にある日出島、三貫島など、ごくわずかしか知られていません。このうち、かつて最大の繁殖地であった日出島の周辺(岩手県宮古市)を本種の調査地域としました。

◇時期

調査は、両種が繁殖地周辺に飛来していると予想される時期(6~8月)に実施しました。

調査方法

各調査地域において漁船をチャーターし、沖合50kmくらいまでの海域でヒメクロウミツバメとクロコシジロウミツバメを探しました。しかし、周辺はどこまでも海ですので、闇雲に洋上を航行して探すことは、とても効率的とはいえません。

そこで、これまでの海鳥観察の経験から、海底地形と餌の匂いの2点について着目して調査を実施しました。

①海底地形

陸地に山や谷があるように、海にも同様に起伏が存在します。このうち、海溝の縁などのような急に水深が深くなる場所や、海山のような周辺よりも水深が浅くなっている場所は、海鳥の餌となる魚類が集まる場所=海鳥が集まる場所として知られています。今回の調査でも、このような海底地形に着目し、調査を実施しました。

②餌の匂い

ウミツバメ科の鳥類は、嗅覚がとても優れており、匂いを頼りに動物プランクトンや魚、イカといった餌を探すという習性があります。この習性を利用して、海外のPelagic tour(海鳥を観察するボートツアー)では、餌の匂いを船の周辺に拡散することで海鳥を集め、観察しています。この方法は、世界各地のPelagic tourで一般的に行われており、効率的に海鳥を誘引し、間近に、そして長時間の観察が可能という利点があります。そこで、今回の調査でもこの方法を利用することとしました。

調査結果

①ヒメクロウミツバメ(京都府舞鶴市沖)

2018年調査は8月に1回、2019年調査は7月に2回実施しました。その結果、目的のヒメクロウミツバメのほか、表-1に示す計4種の鳥類が確認されました。

表-1 確認種一覧(京都府舞鶴市沖)
目名 科名 種名 学名 2018年 2019年
第1回 第2回
ミズナギドリ ミズナギドリ オオミズナギドリ Calonectris leucomelas
ウミツバメ ヒメクロウミツバメ Oceanodroma monorhis
チドリ シギ アカエリヒレアシシギ Phalaropus lobatus
カモメ ウミネコ Larus crassirostris
2目 4科 4種 - 4種 3種 4種
  • ※種名は「日本鳥類目録 改訂第7版」(日本鳥学会 2012年)に準拠した。
  • ※赤枠は調査対象種を示す。
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確認されたヒメクロウミツバメ(2018年調査)

★2018年結果

ヒメクロウミツバメは、沖合で10個体以上が確認されました。今回確認した海域は、海底地形が周辺よりも浅くなっている場所であったこと、それ以外の場所では確認されなかったことから、この海域は本種の採餌場の1つであると考えられます。一方で、残念ながら餌の匂いに対する明確な反応は見られませんでした。

★2019年結果

ヒメクロウミツバメは、第1回調査で50個体、第2回調査で30個体が確認されました。今回確認した海域は、2018年調査で確認された場所と同じ、海底地形が周辺よりも浅くなっている場所です。2018年及び2019年調査において、これ以外の場所では確認されなかったことから、この海域は本種の採餌場所の1つであると考えられます。2018年には、夕方に調査を行いましたが、餌の匂いへの誘因がみられませんでした。海鳥の採餌活動は、主に朝と夕~夜間に活発になることが知られています。そこで、2018年の反省を生かし、2019年には早朝に出港し、推定採餌海域において餌の匂いを漂わせたところ、複数個体が誘引され採餌する様子が確認され、この場所では早朝に調査を行うことが効果的だと考えられました。

また、本種は船に対する警戒心が強いという新しい知見を得ることができました。餌の匂いには誘引されるものの、船とは少なくとも100m以上の距離を保ちながら採餌していました。この点は、他のウミツバメ類(アシナガウミツバメやクロウミツバメ)とは異なる行動です。しかし、ヨーロッパで小型船から観察されたヒメクロウミツバメは、警戒心が強いということはなかったようです。警戒心が強いという特徴が、この地域のヒメクロウミツバメ特有のものなのか? 近距離で観察できる方法はないのか? 今後も検討を続けていきたいと思います。

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確認されたヒメクロウミツバメ(2019年調査)

②クロコシジロウミツバメ(岩手県宮古市沖)

2018年調査は6月~7月にかけて計2回、2019年調査は8月に1回実施しました。
その結果、2018年調査では目的のクロコシジロウミツバメのほか、表-2-1に示す計20種の鳥類が確認されました。2019年調査は当初、6月及び7月に2回調査を実施する予定でしたが、海況不良が続き、8月の実施となりました。目的のクロコシジロウミツバメは確認されませんでしたが、表-2-2に示す計9種の鳥類が確認されました。

★2018年結果

クロコシジロウミツバメは、2回の調査のいずれでも確認されました。1回目の調査では、日没近くの薄暗い時間に、沖合から岸の方向へ飛翔する5個体が確認され、2回目の調査時もほぼ同様の条件で8個体が確認されました。餌の匂いには、同じウミツバメ科のアシナガウミツバメ等は誘引されましたが、本種には反応が見られませんでした。観察された時間帯や飛翔方向、採餌する様子が見られなかったことから、確認された個体は繁殖地への帰巣途中の可能性が高いと考えられます。

★2019年結果

2018年調査では、クロコシジロウミツバメは沖合から岸の方向へ飛翔する個体が確認されていました。しかし、今回は同様の時間帯に同様の場所で調査を実施したにも関わらず、本種の確認には至りませんでした。

その要因として、まず、調査の実施が過去の調査よりも遅い8月下旬(巣内育雛期の中頃に該当)であったことが考えられます。一般的に、海鳥は繁殖ステージの変化により、採餌海域や帰巣周期が変化することが知られています。本種についてはその生態特性は不明ですが、調査時期の違いが本種の確認の有無に影響を及ぼしたのかもしれません。

次に、帰巣ルートの日変化に対応できていない可能性が考えられます。本種の採餌海域は現時点では明らかになっていませんが、餌資源の分布変動に伴って採餌海域も日々変化するものと推測されます。つまり、調査海域が、本種の帰巣ルート(採餌場所→繁殖地)から外れていたため、調査実施日に確認することができなかったのではないか、ということです。特に、調査海域に近接する繁殖地:日出島の本種の繁殖数は非常に少ないと推測されています。僅かな採餌海域の変化が、調査海域での個体確認に大きく影響した可能性があります。

     
表-2-1 2018年調査確認種一覧(宮古市沖)
目名 科名 種名 学名 2018年
第1回 第2回
ミズナギドリ アホウドリ コアホウドリ Phoebastria immutabilis
クロアシアホウドリ Phoebastria nigripes
ミズナギドリ フルマカモメ Fulmarus glacialis
オオミズナギドリ Calonectris leucomelas
オナガミズナギドリ Puffinus pacificus
ハイイロミズナギドリ Puffinus griseus
ハシボソミズナギドリ Puffinus tenuirostris
アカアシミズナギドリ Puffinus carneipes
ウミツバメ アシナガウミツバメ Oceanites oceanicus
クロコシジロウミツバメ Oceanodroma castro
コシジロウミツバメ Oceanodroma leucorhoa
オーストンウミツバメ Oceanodroma tristrami
クロウミツバメ Oceanodroma matsudairae
カツオドリ ウミウ Phalacrocorax capillatus
チドリ シギ アカエリヒレアシシギ Phalaropus lobatus
カモメ ウミネコ Larus crassirostris
オオセグロカモメ Larus schistisagus
ウミスズメ カンムリウミスズメ Synthliboramphus wumizusume
ウトウ Cerorhinca monocerata
ハヤブサ ハヤブサ ハヤブサ Falco peregrinus
4目 8科 20種 15種 15種
  • ※種名は「日本鳥類目録 改訂第7版」(日本鳥学会 2012年)に準拠した。
  • ※赤枠は調査対象種を示す。
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確認されたクロコシジロウミツバメ(2018年調査)

 
表-2-2 2019年調査確認種一覧(宮古市沖)
目名 科名 種名 学名 2019年
ミズナギドリ アホウドリ コアホウドリ Phoebastria immutabilis
クロアシアホウドリ Phoebastria nigripes
ミズナギドリ ハジロミズナギドリ Pterodroma solandri
オオミズナギドリ Calonectris leucomelas
ハイイロミズナギドリ Puffinus griseus
アナドリ Bulweria bulwerii
カツオドリ ウミウ Phalacrocorax capillatus
チドリ カモメ ウミネコ Larus crassirostris
オオセグロカモメ Larus schistisagus
カモメ科 Laridae sp.
3目 4科 9種 9種
  • ※種名は「日本鳥類目録 改訂第7版」(日本鳥学会 2012年)に準拠した。
  • ※カモメ科はアジサシ類であったが、種の特定には至らなかった。同科の種が確認されているため、種数には計上しない。
※対象種以外の特記

2018年の岩手県沖の調査では、対象種以外にも興味深い海鳥が確認されました。

アシナガウミツバメは第1回調査時に100個体以上が、第2回調査時に80個体以上が確認されました。確認された海域は、海底地形が周辺よりも深くなっている海溝に該当する場所で、餌の匂いに対する反応も見られました。本種は2000年代前半まで、日本では迷鳥と考えられていた種でしたが、2007年に千葉県の沖合で観察されて以降、毎年初夏に定期的に渡ってきていることが確認されています。最近では、伊豆諸島や福島県、青森県などの沖合でも確認されていることから、関東地方の沖合へ渡ってきた個体は、そのまま本州の太平洋沿岸を北上しているものと推測されます。

クロウミツバメは第1回調査時に1個体が確認されました。上述のアシナガウミツバメに混じって行動し、餌の匂いに対する反応も見られました。本種は小笠原諸島の南硫黄島が唯一の繁殖地として知られており、初夏になると関東地方の沖合まで北上することが知られています。しかし、東北地方以北では確実な記録はなく、今回の確認は岩手県初記録であるとともに、世界でも最北端の記録と考えられます。

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    アシナガウミツバメ

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    クロウミツバメ

2019年調査で特筆すべき結果としては、ハジロミズナギドリが50個体以上確認されたことがあげられます。本種は南太平洋のロードハウ島やノーフォーク島(いずれもオーストラリア領)で繁殖し、非繁殖期には北西太平洋へ渡ります。日本では主に秋季に北海道や本州北部の太平洋側、伊豆諸島北部の沖合で確認されますが、近年は観察される個体数が増加している印象があり、今後の動向に要注目の種と言えます。

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  • ハジロミズナギドリ

おわりに

調査の結果、京都府舞鶴市沖では目的であったヒメクロウミツバメの確認に至りました。
2018年調査で、普段は僅か1個体を観察することも難しい本種が10個体以上も確認されたこと、これらの個体が特定の海底地形の狭い範囲でまとまって見られたことから、調査海域では今後も本種が確認される可能性は高いと推測していました。2019年調査では、さらに採餌する様子も確認されたことから、当海域は本種の定常的な採餌海域であると考えられます。国内における本種の定常的な採餌海域はこれまで見つかった事例がなく、国内初の採餌海域の発見であると思われます。

岩手県宮古市沖では、2019年調査では残念ながらクロコシジロウミツバメの確認には至りませんでした。2018年調査では、特定の時間帯に観察できる可能性が高いことがわかりましたが、残念ながら、海底地形や餌の匂いによる関連付けはできませんでした。2019年調査で本種が確認できなかったのは、海域不良に伴い、調査の実施が8月末になったことがその要因の1つと考えられます。今後はこれまでに本種が確認されている6月末~7月に調査を行いたいと考えています。

また、調査対象種ではありませんが、アシナガウミツバメ等に対しては、海底地形を考慮し、餌の匂いを拡散させることで、効率的な観察が可能であることがわかりました。今回の調査から、普段は観察が困難である種も、鳥の習性を知り、利用することで、確度の高い観察機会が得られるということを改めて知る機会になりました。今後は他の種についても調査を行いたいと考えています。

なお、海外では今回使用した調査方法により、例えばNew Zealand Storm Petrel Fregetta maoriana (Mathews, 1932)やFiji Petrel Pseudobulweria macgillivrayi (Gray, GR, 1860)など絶滅したと思われていた海鳥の再発見が続いています。そして、今後もこの再発見ブームは続きそうです。

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    船の周囲に集まる海鳥

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    夕方の岩手県沖

※詳細な確認位置等のお問い合わせについては、回答致しかねます。

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