テクニカルノート

第二回南極への旅

2020年1月9日
文:動物調査室 清水 博之・田野井 翔子

旅の目的

南極と聞いて皆さんは何をイメージするでしょうか?雪、氷、寒い、最果ての地、ペンギン…等々ぼんやりとは思い浮かぶものの、正直自分には関係のない遠い世界だとお思いではないでしょうか?

しかしながら、実はそれほど無関係な場所ではないのです。例えば近年話題にのぼることの多い、気候変動に伴う海水面の上昇は、南極大陸の上にある雪や氷が溶けだすことがひとつの要因だと考えられています。また、水族館で人気のペンギン達は、そのほとんどが南極から亜南極の地域に暮らしています。それと…、筆者達の興味の対象である海鳥の中には、南極から日本周辺、ひいては北極近くまでという、途方もなく長い長い渡りを行う種も知られています。

気候変動の影響は高緯度地域で大きくなりやすく、南極でも気温の上昇や陸氷の減少、海の結氷状況の変化などが報告されており、生き物たちも生息範囲の変化や、個体数の減少といった影響が生じています。特に、南極で厳冬期に繁殖するという特異な生態をもつコウテイペンギンは、海氷の減少により2100年までには個体数の86%が減少するだろうという予測も報告されています。

いつまで見られるか分からない、極地の希少な鳥たちが見たい!日本周辺に渡ってくる海鳥の南極での姿が見たい!南極ロス海の北に浮かぶバレニー諸島のみが純粋な繁殖地であるGreater Snow Petrel(仮称:オオユキドリ)が見たい!といった思いのもと、社員の皆の協力のお陰もあり、南極へ向け旅立つことが出来たのでした…。

旅の概要

--- 行程 ---

2019年2月9日、日本からニュージーランド北島のオークランド、南島のクライストチャーチと2回の飛行機の乗り継ぎを経て、南島最南の町インバーカーギルに到着しました。翌2月10日に、インバーカーギルのブラフという港から出発です。29日間の船旅では、スネアーズ諸島、オークランド諸島、マッコリー島、キャンベル島という亜南極の島々を訪れたほか、南極圏にあるバレニー諸島の近くを通り、ロス海を周遊しました。また、機会をみて氷で南極大陸とつながっているロス島やインエクスプレッシブ島に上陸し、南極大陸にも上陸しました。3月10日に一ヶ月におよぶ長い旅路を終え、南島のクライストチャーチの港に帰りました。

旅程

旅程

--- 船について ---

今回利用した船はProfessor Khromov(愛称:Spirit of Enderby)、長さ72m、2,000tほどの砕氷船です。ニュージーランドの旅行会社Heritage Expeditionsが運行しており、私たちもHeritage社のツアーに参加して乗船しました。内装はしばしばリニューアルされているようで、とてもきれいな印象を受けました。また、様々なクラスの部屋がありますが、最も安価なクラスでもベッド2台、洗面台、机、物入れ、長椅子が備えられ、荷物を広げるにも十分なスペースがあり快適でした。食堂やバーといった共有スペースもあり、航海中に鳥を見ない人たちも、読書や編み物、ゲーム等をして優雅な時間を過ごしているようでした。

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    砕氷船 Professor Khromov(Spirit of Enderby)

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    船室の様子(ベッド2台、ロッカー、奥に長椅子と机、右手画面外にシンクがあります)

--- 持ち物 ---

今後南極を訪れる方の参考になればと思い、持ち物を以下にあげます。南緯約45°から約75°までの南北に長い旅路ですので、体温調整のしやすい服装を心がけました。また、長い旅のあいだに機材に不調が出る時もあります(私は島で転んでレンズ1本壊しました)。せっかくの機会に思い出を残せないのは悲しいので、予備の機材もあるとよいかと思います。

持ち物リスト

  • スーツケース…船室の広さによるが、片面開きのものが◎
  • インナー上下…冬用の暖かいもの
  • Tシャツ…船内で着用
  • トレーナー
  • フリース
  • ダウンジャケット
  • ズボン…夏用と冬用
  • アウターパンツ…カッパでも代用可
  • アウタージャケット…船で貸し出しもある
  • パジャマ
  • インナー・アウター靴下
  • インナー・アウター手袋
  • ネックウォーマー
  • キャップorハット
  • 毛糸の帽子
  • サングラス
  • サンダル…船内で使用
  • トレッキングシューズ
  • (スノーブーツ)船で冬用長靴の貸し出しあり
  • ザック
  • 水筒
  • 洗濯ロープ
  • 日焼け止め
  • カッパ
  • 折り畳み傘
  • パソコン、HDD…データの保存、整理
  • 酔い止め薬 必須
  • 常備薬
  • メモ帳…鳥の出現状況の記録
  • 図鑑
  • 双眼鏡
  • (スコープ・三脚)…上陸時には使用機会があるかも
  • カメラ・レンズ
  • 予備カメラ・レンズ
  • カップ麺・お菓子・カロリーメイト等
     …船酔いで部屋から動けない時に
  • 暇つぶしグッズ…悪天候で部屋から動けない時に
  • クレジットカード…船内や基地での支払い
  • パスポート
     …南極の基地で記念スタンプがもらえる
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貸し出される長靴
(かなり優秀で足元は全く寒くありませんでした!)

--- 環境への配慮 ---

まず、如何なる手段であれ、南極へ旅行するには「環境省への届出」と「活動計画の確認申請」が必要となっています。ただし、ツアー旅行に参加する場合には、活動計画の確認申請はツアー会社が行うことがほとんどです。そのため、個人での手続きは届出のみで済むことが多いです。

南極へ渡航するツアー会社は、極地という特異な環境への旅行であることから、環境への負荷を軽減する配慮を行っています。今回のツアー時にも、こまめに全体ブリーフィングが設けられ、様々な注意点や上陸する場所の地理・歴史・環境に関する説明がなされたほか、外来種の種子などの持ち込みを防ぐため、上陸前には衣服や靴の掃除機がけ&スタッフによるチェック(結構厳しくやり直しも指示される)、靴底の洗浄&消毒が必須でした。また、様々な分野に秀でたスタッフも多く、各国の南極探検に参加経験のある方や、ペンギンの研究を行っていた方、鯨類や海鳥の観察に詳しい方、船医さん等から、鳥類や哺乳類、歴史、極地での医学などに関するレクチャーが何度も開かれました。

実際に見て経験するだけでなく、これを機会に南極についての知識・感心を高めてほしいという強い思いがあるようでした。今回利用したHeritage社は、閉鎖的な自然保護ではなく、自然保護が必要な場所を人々と共有すること(見せたり体験させたりすること)によって、自然界への認識と保護の機運を高めることが保護活動を支援することに繋がる、という強い理念のもとで運営されていることから、環境への配慮・環境教育のような側面が特に強かったのかもしれません。

  • 全体ブリーフィングの様子

    全体ブリーフィングの様子

  • 靴底の洗浄と消毒の様子

    靴底の洗浄と消毒の様子

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洋上での観察

旅程の半分以上にあたる24日間は陸に上がることなく、終日洋上で観察しました。船のデッキ及びゾディアックと呼ばれるボートから、56種の鳥類と11種の哺乳類を観察しました。

1) 船(Spirit of Enderby)からの観察

Spirit of Enderbyは最大出力でも約18km/hという比較的ゆっくりした速度、デッキの位置も海面から6mほどで、海鳥の観察に適している船と思います。基本的には一日中デッキに出て観察を行おう!!と考えていたのですが…海況があまりにも悪かったり(最大で波6mの中の航海)、あまりにも寒かったり(マイナス10度以下で強風)、鳥が少ない海域もあったりしたため、思うようにデッキに立ち続けられない日もありました。操舵室(ブリッジ)については着岸・離岸作業時以外は常時解放されていたので、海況や天候が悪い日には、ブリッジから窓越しに観察を行うこともありました(上層階のため揺れが大きい、窓が潮の飛沫で曇っているという難点はありますが…)。

海獣類のように跳ねながら泳ぐキングペンギンの群れや、海氷に乗って西日を浴びるエンペラーペンギン、強風に乗って空高く上がるアホウドリ類、オオトウゾクカモメから逃げるユキドリの群れなど、洋上でしか見られない、ダイナミックな光景に日々圧倒されるばかりでした。

下部前方観察デッキの様子

下部サイド観察デッキの様子

下部サイド観察デッキ(屋根と壁があり、悪天候時にはここで観察を行う)

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    ブリッジ
    (荒天時はお邪魔して観察を行う)

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    ブリッジからの景色(高い位置にあるため、見晴らしはよいが揺れが大きい)

2) ゾディアックからの観察

上陸が禁じられている場所・海氷に乗った生き物に接近する場合や、大陸・島への上陸の際には小型のゴムボート(製造社名から通称ゾディアック)を使用します。船よりも低い位置から観察が可能で、生き物に近づくことができるため、非常に楽しいひと時となります。ボートに纏わりつくように泳ぐニュージーランドアシカとの出会いや、海氷に乗ったエンペラーペンギンから見下ろされるという貴重な体験もありました。ただし南極海では、しぶきがすぐに凍り、岸につく頃には上着が氷に覆われている…なんてことも。しっかりとした防寒・防水対策が必要になります。

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    ゾディアックは10人程乗れる、
    小型の船外機付きゴムボート

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    生き物と同じ目線の高さでの
    観察が可能となる

ゾディアックからの観察の様子(皆が見上げる先にはSnares Crested Penguinがいます)

表 洋上での確認種一覧(鳥類)
No. 科名 学名 英名 和名
1LaridaeChroicocephalus novaehollandiae Silver Gullギンカモメ
2Chroicocephalus bulleriBlack-billed Gullハシグロカモメ
3Sterna striataWhite-fronted Ternシロビタイアジサシ
4Sterna vittataAntarctic Ternナンキョクアジサシ
5Chlidonias albostriatusBlack-fronted Ternクロビタイアジサシ
6StercorariidaeStercorarius maccormickiSouth Polar Skuaオオトウゾクカモメ
7Stercorarius antarcticusBrown Skuaカッショクオオトウゾクカモメ
(仮称)
8Stercorarius parasiticusParasitic Jaegerクロトウゾクカモメ
9Stercorarius longicaudusLong-tailed Jaegerシロトウゾクカモメ
10SpheniscidaeAptenodytes patagonicusKing Penguinオウサマペンギン
11Aptenodytes forsteriEmperor Penguinコウテイペンギン
12Pygoscelis adeliaeAdelie Penguinアデリーペンギン
13Eudyptes schlegeliRoyal Penguinロイヤルペンギン(仮称)
14Megadyptes antipodesYellow-eyed Penguinキンメペンギン
15OceanitidaeOceanites oceanicusWilson's Storm Petrelアシナガウミツバメ
16Garrodia nereisGrey-backed Storm Petrelヒメアシナガウミツバメ
17Pelagodroma marinaWhite-faced Storm Petrelカオジロウミツバメ
18Fregetta tropicaBlack-bellied Storm Petrelクロハラウミツバメ
19Diomedea exulansWandering Albatrossワタリアホウドリ
20Diomedea antipodensisAntipodean Albatrossアンチポデスアホウドリ(仮称)
21Diomedea antipodensis gibsoni(Gibson’s Albatross)ギブソンアホウドリ(仮称)
22Diomedea epomophoraSouthern Royal Albatrossシロアホウドリ
23Diomedea sanfordiNorthern Royal Albatrossキタシロアホウドリ(仮称)
24Phoebetria palpebrataLight-mantled Albatrossハイイロアホウドリ
25Thalassarche melanophrisBlack-browed Albatrossマユグロアホウドリ
26Thalassarche impavidaCampbell Albatrossキャンベルアホウドリ(仮称)
27Thalassarche cauta steadiShy Albatrossハジロアホウドリ
28Thalassarche salviniSalvin's Albatrossサルビンアホウドリ(仮称)
29Thalassarche chrysostomaGrey-headed Albatrossハイガシラアホウドリ
30Thalassarche bulleri bulleriBuller's Albatrossニュージーランドアホウドリ
31ProcellariidaeMacronectes giganteusSouthern Giant Petrelオオフルマカモメ
32Macronectes halliNorthern Giant Petrelキタオオフルマカモメ
33Fulmarus glacialoidesSouthern Fulmarギンフルマカモメ
34Thalassoica antarcticaAntarctic Petrelナンキョクフルマカモメ
35Daption capenseCape Petrelマダラフルマカモメ
36Pagodroma nivea nivea(Lesser) Snow Petrelユキドリ
37Pagodroma nivea major(Greater) Snow Petrelオオユキドリ(仮称)
38Halobaena caeruleaBlue Petrelアオミズナギドリ
39Pachyptila vittataBroad-billed Prionヒロハシクジラドリ
40Pachyptila salvini salviniSalvin's Prionサルビンクジラドリ(仮称)
41Pachyptila desolataAntarctic Prionナンキョククジラドリ
42Pachyptila belcheriSlender-billed Prionハシボソクジラドリ
43Pachyptila turturFairy Prionヒメクジラドリ
44Pachyptila crassirostrisFulmar Prionハシブトクジラドリ
45Pterodroma lessoniiWhite-headed Petrelメグロシロハラミズナギドリ
46Pterodroma mollisSoft-plumaged Petrelカオジロミズナギドリ
47Pterodroma inexpectataMottled Petrelマダラシロハラミズナギドリ
48Pterodroma cookiiCook's Petrelハジロシロハラミズナギドリ
49Procellaria cinereaGrey Petrelオオハイイロミズナギドリ
50Procellaria aequinoctialisWhite-chinned Petrelノドジロクロミズナギドリ
51Ardenna bulleriBuller's Shearwaterミナミオナガミズナギドリ
52Ardenna griseaSooty Shearwaterハイイロミズナギドリ
53Ardenna tenuirostrisShort-tailed Shearwaterハシボソミズナギドリ
54Puffinus gaviaFluttering Shearwaterミナミミズナギドリ
55Puffinus elegansSubantarctic Shearwaterミナミヒメミズナギドリ(仮称)
56Pelecanoides georgicusSouth Georgia Diving Petrelミナミモグリウミツバメ
57Pelecanoides urinatrixCommon Diving Petrelモグリウミツバメ
  • ※種名及び配列は、基本的にIOC World Bird List version9.2 (IOC World Bird List, 2019)に準拠した。
  • ※和名は、日本で記録がある種については「日本鳥類目録 改訂第7版」(日本鳥学会 2012年)に従った。記録がない種については、山階鳥類研究所標本データベースで公開されている「『世界鳥類和名辞典』(山階 1986)とIOC World Bird List 3.2の分類体系の比較結果」(参照日:2019-12-25)に従った他、英名を参考に仮称として記載した。
表 洋上での確認種一覧(哺乳類)
No. 科名 学名 英名 和名
1OtariidaeArctocephalus forsteriNew Zealand Fur Sealニュージーランドオットセイ
2Phocarctos hookeriNew Zealand Sea Lionニュージーランドアシカ
3PhocidaeHydrurga leptonyxLeopard Sealヒョウアザラシ
4Lobodon carcinophagaCrabeater Sealカニクイアザラシ
5BalaenopteridaeBalaenoptera bonaerensisAntarctic Minke Whaleクロミンククジラ
6Balaenoptera physalusFin Whaleナガスクジラ
7Megaptera novaeangliaeHumpback Whaleザトウクジラ
8DelphinidaeCephalorhynchus hectoriHector's Dolphinセッパリイルカ
9Lagenorhynchus crucigerHourglass Dolphinダンダラカマイルカ
10Lagenorhynchus obscurusDusky Dolphinハラジロカマイルカ
11Orcinus orcaKiller Whaleシャチ
  • ※種名及び配列は「世界哺乳類標準和名目録」(川田伸一郎・岩佐真宏・福井 大・新宅勇太・天野雅男・下稲葉さやか・樽 創・姉崎智子・横畑泰志 2018年)に準拠した。(参照日:2019-12-5)
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亜南極の島々

ニュージーランドから南極の間には複数の島々があり、それぞれに独自の生態系を築いていることから、亜南極のガラパゴスと称されることもあります。今回は3つの島に上陸、1つの島に接近して27種の鳥類、3種の哺乳類を観察することが出来ました。亜南極の島々は、開拓の歴史から外来種の侵入が深刻な問題となっており、今回は外来種が侵入している島、除去が完了している島のそれぞれに上陸する機会がありました。

外来種のブタやネズミなどが侵入しているオークランド諸島オークランド島では、貧弱な下層植生、鳥の気配の少なさにショックを受けました。除去が完了しているマッコリー島やキャンベル島、オークランド諸島エンダビー島では、多様な植物を目にすることができ、陸鳥も比較的多様で、海鳥の繁殖痕跡も多く見られました。特にマッコリー島は、2014年に除去が完了したばかりですが、船内で見せてもらった除去前の状況と比べると、植生が非常に豊富になっており、外来種による影響の大きさを感じました。

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    林床の様子(オークランド島)

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    外来種のブタによって掘り返された跡(オークランド島)

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    林床の様子(エンダビー島:外来種駆除済み)

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    豊富な植生と当地で繁殖するSouthern Royal Albatross(キャンベル島)

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岸壁で繁殖するLight-mantled Albatross(エンダビー島)

表 陸上での確認種一覧(鳥類)
No. 科名 学名 英名 和名
1AnatidaeAnas aucklandicaAuckland Tealチャイロコガモ
2Anas nesiotisCampbell Tealキャンベルチャイロコガモ(仮称)
3CharadriidaeCharadrius bicinctusDouble-banded Ploverチャオビチドリ
4Coenocorypha aucklandicaSubantarctic Snipeムカシジシギ
5LaridaeChroicocephalus novaehollandiae Silver Gullギンカモメ
6Sterna vittataAntarctic Ternナンキョクアジサシ
7StercorariidaeStercorarius maccormickiSouth Polar Skuaオオトウゾクカモメ
8SpheniscidaeStercorarius antarcticusBrown Skuaカッショクオオトウゾクカモメ(仮称)
9Aptenodytes patagonicusKing Penguinオウサマペンギン
10Aptenodytes forsteriEmperor Penguinコウテイペンギン
11Pygoscelis adeliaeAdelie Penguinアデリーペンギン
12Eudyptes robustusSnares Penguinハシブトペンギン
13Eudyptes chrysocomeSouthern Rockhopper Penguinイワトビペンギン
14Eudyptes schlegeliRoyal Penguinロイヤルペンギン(仮称)
15Megadyptes antipodesYellow-eyed Penguinキンメペンギン
16OceanitidaeDiomedea epomophoraSouthern Royal Albatrossシロアホウドリ
17Phoebetria palpebrataLight-mantled Albatrossハイイロアホウドリ
18Thalassarche bulleri bulleriBuller's Albatrossニュージーランドアホウドリ
19ProcellariidaeMacronectes giganteusSouthern Giant Petrelオオフルマカモメ
20Macronectes halliNorthern Giant Petrelキタオオフルマカモメ
21PhalacrocoracidaeLeucocarbo purpurascensMacquarie Shagマッコリーウ(仮称)
22Leucocarbo campbelliCampbell Shagノドオビムナジロウ
23Leucocarbo colensoiAuckland Shagオークランドウ(仮称)
24FalconidaeFalco novaeseelandiaeNew Zealand Falconニュージーランドハヤブサ
25PsittaculidaeCyanoramphus novaezelandiaeRed-crowned Parakeetアオハシインコ
26PetroicidaePetroica macrocephalaTomtitニュージーランドヒタキ
27MotacillidaeAnthus novaeseelandiaeNew Zealand Pipitニュージーランドタヒバリ(仮称)
  • ※種名及び配列は、基本的にIOC World Bird List version9.2 (IOC World Bird List, 2019)に準拠した。
  • ※和名は、日本で記録がある種については「日本鳥類目録 改訂第7版」(日本鳥学会 2012年)に従った。記録がない種については、山階鳥類研究所標本データベースで公開されている「『世界鳥類和名辞典』(山階 1986)とIOC World Bird List 3.2の分類体系の比較結果」(参照日:2019-12-25)に従った他、英名を参考に仮称として記載した。
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今回の成果

68種もの鳥類を観察することができました。その中でも、日本周辺にも共通して出現する種や、識別が難しいとされている種について、南極での様子や識別に役立ちそうな情報など、今回の観察で分かったことを中心に文献情報も合わせて以下に記します。

※以下、鳥の写真はクリックで拡大します。

① South Polar Skua (オオトウゾクカモメ)

南極で繁殖し、非繁殖期は北半球へ渡ります。日本では、主に春から夏にかけて、北海道や本州の太平洋側沿岸を北へ渡っていく個体が観察されます。今回南極を訪れた時期は繁殖期の終盤にあたり、繁殖中の個体をみる機会は少なかったですが、綿羽がわずかに残る幼鳥を2個体見ることができました。これから羽が生え揃い、北半球までの壮大な渡りを行うのかと考えると、驚きと尊敬の念を抱きます。

今回観察した成鳥に関しては、ほとんどの個体が日本沿岸で見るよりも淡色でした。文献によるとロス海周辺で繁殖する個体は大部分が淡色型とされており、南極半島などで繁殖する個体は日本で見られるような暗色の個体が繁殖しています。また、近年の本種の渡りに関する研究によると、南極半島周辺で繁殖する個体は、日本の東海上から太平洋東部にかけての海域へと渡りを行うそうです。ロス海の繁殖個体がどのような渡り経路を通るかは不明ですが、日本の周辺に渡来するオオトウゾクカモメは、直線距離で最も近いロス海の個体群ではなく、南極半島周辺の個体群である可能性が考えられます。

South Polar Skua (オオトウゾクカモメ)

South Polar Skua
(オオトウゾクカモメ)

② Emperor Penguin (コウテイペンギン)

南極といえばペンギン!と思う方が多いと思います。その中でも本種は、南極の中でも限られた場所でしか見ることができないペンギンです。今回訪れた2月末は、これから始まる繁殖に向けて少しずつ群れを形成し始める季節になります。運が良ければ数羽が見られるかも、と観察には不確実性が大きいと聞いていましたが、幸運にも70羽以上の個体に出会いました。温暖化の影響などにより個体数が減少しており、既になくなってしまったコロニーもあります。2100年までには絶滅してしまうかも、という研究結果もあり、いつまでもその姿が見られることを願わずにはいられません。

Emperor Penguin (コウテイペンギン)

Emperor Penguin
(コウテイペンギン)

③ Wilson's Storm Petrel (アシナガウミツバメ)

南極大陸沿岸部やその周辺の島々で繁殖し、繁殖後は北半球へ長距離の渡りを行います。かつて、日本では数回の記録がある迷鳥でしたが、2008年以降、小笠原諸島から東北地方にかけての太平洋側で毎年5月から8月頃に見られるようになりました。

名前のとおり長い脚を持ち、飛翔時はその長い脚が尾羽より先へ突出します。これまで、日本ではこの脚の突出が他種との識別点の1つとして挙げられていましたが、近年、脚を腹部の羽毛の中に引き込む=脚を突出せずに飛翔する行動が知られるようになりました。そのため、他種との識別には、嘴の大きさや翼の形状、飛び方など、複数の特徴を総合的に判断することが重要だと思います。

今回観察できた個体のうち、バレニー諸島以南の気温が0℃以下の海域では、ほとんどの個体が脚を引き込んだ状態で飛翔していました。おそらく、体温を保持するための行動と推測されます。

  • 脚が突出している状態:Wilson's Storm Petrel (アシナガウミツバメ)

    脚が突出している状態:Wilson's Storm Petrel
    (アシナガウミツバメ)

  • 脚を引き込んだ状態:Wilson's Storm Petrel (アシナガウミツバメ)

    脚を引き込んだ状態:Wilson's Storm Petrel
    (アシナガウミツバメ)

④ Black-bellied Storm Petrel (クロハラウミツバメ)

日本では小笠原航路で本種の可能性のある観察記録がありますが、写真等の証拠を伴う記録はありません。いつの日か日本の海域で見つけることを期待し、類似するアシナガウミツバメと比較して野外ではどのくらい形態や飛び方が異なって見えるのか、実物を見てみたいと長年望んでいた種です。

幸いにも、今回の航海では数百羽もの本種を観察することができました。ずんぐりとした体型と、採餌時に時々見られる'スキー'と呼ばれる片脚をたらした飛翔はとても特徴的でした。白い腹部は体を傾けた時には、はっきりとわかりますが、腹の中央部にある暗色線は想像以上に確認しづらく、特に暗色線の不明瞭な個体(この特徴には個体差があります)は写真を撮ってようやく確認できることもありました。

  • Black-bellied Storm Petrel (クロハラウミツバメ)

    Black-bellied Storm Petrel
    (クロハラウミツバメ)

  • この角度では腹中央部の暗色線の確認は難しい:Black-bellied Storm Petrel (クロハラウミツバメ)

    この角度では腹中央部の暗色線の確認は
    難しい:Black-bellied Storm Petrel
    (クロハラウミツバメ)

⑤ Greater Snow Petrel (オオユキドリ)

本種は世界的にもほとんど知られていない海鳥の1種で、従来の文献においても、酷似するLesser Snow Petrel (ユキドリ)との違いや生態については、ごく限られた情報しかありません。

今回の航海では、本種の世界唯一の純粋な繁殖地として知られるバレニー諸島付近を航行することから、本種を観察し、Lesser Snow Petrel (ユキドリ)との違いを知ることがこの旅の大きな目的の1つでした。

バレニー諸島付近を航行した際、個体数は決して多くありませんでしたが、本種を観察する機会に恵まれました。顔つきや太い頸、短くてがっちりした嘴など、Lesser Snow Petrel (ユキドリ)との差を実際に見ることができ、その特徴を認識することができました。

  • Greater Snow Petrel (オオユキドリ)

    Greater Snow Petrel
    (オオユキドリ)

  • Lesser Snow Petrel (ユキドリ)

    Lesser Snow Petrel
    (ユキドリ)

⑥ マダラシロハラミズナギドリ

日本では数例の記録がある迷鳥で、今回の航海で立ち寄ったスネアーズ諸島やその北側のスチュアート島で繁殖し、非繁殖期はベーリング海へと長距離の渡りを行います。

繁殖地はニュージーランド南島に近いものの、外洋で採餌を行う習性のためか、ニュージーランドで実施されているPelagic(海鳥を観察する日帰りのツアー)では、ほとんど見る機会がありません。しかし、今回の航海では遠洋を航行したため、約500羽を観察することができました。南極圏付近の氷山のある海域でも見られ、図鑑に記載されている以上に広い分布をしていることを知りました。

マダラシロハラミズナギドリ

マダラシロハラミズナギドリ

⑦ South Georgian Diving-Petrel (ミナミモグリウミツバメ)

南半球の高緯度地域に生息するCommon Diving-Petrelに酷似する知見の少ない種で、両種の野外での識別は困難であることが多いと言われています。図鑑に掲載されている写真を見ても、本当にSouth Georgianなの?と疑うものも多く、実物を見てみたいと思っていた種でした。

航海中、100羽以上のDiving-Petrelを観察しましたが、South Georgianと認識できた個体は僅か3羽だけでした。大部分はCommonでしたが、どちらの種なのか断定できない個体もいくつかおり、改めて両種の識別の難しさを痛感しました。個体数の多いCommonについても研究者はほとんどいないため、形態や生態については不明なことが多いと言われています。どなたか、Diving-Petrelを研究して詳細な特徴をぜひ明らかにして下さい…。

South Georgian Diving-Petrel (ミナミモグリウミツバメ)

South Georgian Diving-Petrel
(ミナミモグリウミツバメ)

おわりに

普段の生活からは物理的、心理的にも距離が遠い南極ですが、気候変動や海洋汚染、外来種の問題など、私たち人間の生活が極地の環境に影響を及ぼしていることは確かです。今回の旅では、人間が南極大陸を発見するよりも遥かに昔から、この厳しい環境のもとで脈々と命をつないできた生き物たちをほんの僅かですが知ることができ、少し身近に感じることができました。

現在、人間活動により、南極の生き物の多くの種が生存の危機にさらされていると言われています。この報告を読んで頂いた方が少しでも南極に興味を持ち、極地の生き物の行く末に思いを寄せてくれたならば、非常に光栄です。そして、もし機会があれば、自分の目で極地の生き物を見に行かれることを強くおすすめします。実際に見て、感じた経験は、伝え聞いたものよりはるかに重く、代えがたいものとなると思います。

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