テクニカルノート

子どもゆめ基金体験活動プログラム
「自然環境調査をもとに”オリジナル環境情報図”を作成してみよう」へのご協力報告

2021年12月20日
文:環境企画課 中川 美知子

子どもゆめ基金による環境教育プログラム

2021年10月から11月にかけて行われた、株式会社青葉環境保全さん主催の環境教育プログラムのなかでエコリスが生物調査をお手伝いさせていただきました。エコリスは調査地域や時期の選定から関わらせていただき、現地調査、生物リスト作成、環境アセスメントについての解説などを行いました。ここではそのご報告と、活動内容についてご紹介いたします。

※このプログラムは、令和3年度子どもゆめ基金助成活動です。子どもゆめ基金は平成13年4月に創設された、国と民間が協力して子どもの体験・読書活動などを応援し、子どもの健全育成の手助けをする基金です。
■子どもゆめ基金 https://yumekikin.niye.go.jp/
■子どもゆめ基金助成活動情報サイト:自然環境調査をもとにオリジナル環境情報図を作成してみよう

○プログラムの概要

全2日間の日程で行いました。1日目は名取市にある樽水ダムで各項目の班ごとに現地調査。学生のみなさんへは課題を出し、確認種リスト、重要種確認状況票を作成していただき、エコリスで添削。その後、それぞれの班で生きものや環境の保護について考え、2日目にスライド発表をしていただきました。

  • 1日目:2021年10月17日(日) 生物調査員と項目別の班をつくり、野外で現地調査を行う
  • 2日目:2021年11月14日(日) 現地調査の結果、課題の考察をスライドで発表
  • 対象:高校生(定員16名)
  • 専門班:①植物 ②鳥類 ③魚類・底生動物 ④両生類・哺乳類・昆虫
  • 調査地:樽水ダム

(新型コロナウイルスによる延期)

当初の計画では、開催は8月下旬から9月。現地調査のあと、その結果を高校生のみなさんと一緒に整理、リスト化、環境情報図を作成する予定でした。ところが開催間近になって新型コロナウイルスの感染が全国的に拡大し、開催を延期せざるを得ない状況になりました。そのため、活動の内容もなるべく接触を減らす方向で見直しました。最終的には10月中旬から11月に再設定したプログラムを実施し、無事、全日程を終えることができました。

◇7月中旬に下見を実施し、調査地域は樽水ダムB地区公園エリアに決定。
(はじめは8月に実施予定だったため、熱中症などを懸念していたのですが…)

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    樽水ダム下見-1

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    樽水ダム下見-2

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    樽水ダム下見-3

◇青葉環境保全さん作成の、活動プログラム告知・募集チラシ(再設定後)
 生きものに対する熱意のある高校生のみなさんを募集しました。

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    プログラム告知チラシ-1

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    プログラム告知チラシ-2

現地調査前日:トラップの設置

事前に魚類、哺乳類(ネズミ類)の特別採捕許可を取得し、前日にエコリスの調査員が樽水ダム周辺にトラップを仕掛けました。この日はあいにくの雨でした。次第に天気は回復にむかうとの予報でしたが、明日の状況を心配しながらの作業となりました。

・魚類ははえなわ、定置網を樽水ダム流入部の増田川に設置。
・哺乳類は誘引用の餌(ピーナッツ等)を入れたシャーマントラップを湿性草地と針葉樹林の各地点に複数個仕掛け、うまく入ってくれることを祈ります。また獣の通り道になっていそうなところにセンサーカメラを一晩設置しました。センサーカメラは熱(赤外線)に反応して自動的に撮影を行います(SDカードへ記録するため、相当な枚数を撮影することができます)。カメラの前にはマヨネーズをまき、おいしそうな匂いをさせて生きものたちが足を止めてくれるようにしておきます。
・昆虫は季節と天候を考えるとやや厳しいものがありましたが、ライトトラップ、ベイトトラップを設置しました。記録係の私もベイトトラップの穴を掘らせてもらいました。専用の器具(写真の赤い棒です)で地面に穴を開けます。プラスチックのコップがうまく収まる深さと幅が必要とのことで、昆虫調査員から厳しい指導を受けました。このコップにも誘引用の餌を入れます。

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    魚類トラップ

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    哺乳類シャーマントラップ

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    センサーカメラ

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    昆虫ライトトラップ

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    昆虫ベイトトラップ用の穴掘り

1日目:樽水ダムでの現地調査

2021年10月17日(日)、朝からどんよりとした空模様で、残念ながら時折冷たい雨が降るという天気。しかしながらプログラムは予定通り開催しました。集合から最初のオリエンテーションの時間までは音をたてて降るほどの雨でしたが、幸い、その後は小降りになり、調査中は傘の必要はありませんでした。午後からは少し日差しもありました。とはいえ、一日をとおして気温はかなり低く、レインウェアの上下を装備していても寒いくらいで、調査体験には厳しい天候でした。せめてもう少し気温が高ければよかったのですが…。そのような状況下でも、参加された高校生のみなさんはよく頑張ってくれたと思います。

○オリエンテーション

まず簡単にお互いの自己紹介を行った後、現地の植生図(現存植生図)について説明を行いました。植生図は環境省が行っている植生調査の結果を図示したもので、さまざまな環境調査の下地となります。このデータはネット公開されており、生物多様性センターの自然環境調査Web-GISで閲覧やダウンロードが可能です。植生図のほかにも自然に関するさまざまなデータが公開されていますので、ぜひ一度ご覧になってみてください。
■自然環境調査Web-GIS - 生物多様性センター(環境省 自然環境局)

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    オリエンテーション

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    植生図について

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    樽水ダム現存植生図

○魚類トラップ

次に、全員でトラップの確認です。はじめは魚類。胴長を装備した魚類・底生動物班(調査員2名と、高校生2名)が川に下り、トラップを回収しました。あげてみるまで何がかかっているか予想がつかず、ナマズや巨大なコイの姿がみえたときには大きな歓声があがりました。生きた魚にふれた経験がない方もおり、みなさん興味深げにさわってみていました。

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    魚類のトラップ確認

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    定置網の回収

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    はえなわにかかっていたコイ

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    他の班は回収の様子を見学

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    捕獲されたナマズ

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    魚にさわる高校生のみなさん

○哺乳類・昆虫トラップ

続いて哺乳類と昆虫のトラップ回収です。各種トラップの仕組みについて解説した後、実際に捕獲された生きものを確認しました。昆虫はやはり普段よりは少なめでしたが、ある程度の数が入っていました。哺乳類のシャーマントラップでは、生きたアカネズミが1匹捕獲されていました。2か所に仕掛けたセンサーカメラではどちらもタヌキの姿が確認されました。このように、トラップ、カメラといった道具を駆使することで、直接の遭遇や観察が難しい生きものの生息を確認することができます。

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    トラップの解説

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    昆虫の確認

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    センサーカメラの画像確認

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    アカネズミ(写真:青葉環境保全)

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    スギ植林・林道のタヌキ

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    湿性草地のタヌキ

○各班での調査

トラップ確認終了後は、各項目の班にわかれて調査開始です。どの班においても、基本的には任意のルートを移動しながら生きものを探すことになります。その際、発見の精度をあげるにはただ漫然と歩くのではなく、生きものが隠れていそうな場所、そこにいた痕跡が残っていそうな場所の目星をつけながら歩くことが必要です。そのためには生きものに対する幅広い知識と経験が必要となります。

※各班の調査の全体的な様子は以下の青葉環境保全さんのブログで紹介されています。
■現地調査終了!「自然環境調査をもとに”オリジナル環境情報図”を作成してみよう」

●植物班

身のまわりの「自然」を思い浮かべていただくとわかると思いますが、都市部でもないかぎり、およそあらゆる地面はほぼすべて植物に覆われています。植物調査のひとつ、植物相調査では、対象となる地区に生育している植物種をすべてリストアップしていきます。文字通りすべて、ですので、100種、200種もの多様な種をすばやく同定していく(※種名を明らかにしていく)能力が求められます。植物は動きませんが、希少種とされる種がどんなところに生育しているかの知識も重要です。

今回の調査体験では、調査員が任意に数をしぼり、ピックアップした種の同定のポイントを解説しながら、30種ほどを観察しました。写真はキク科の植物を確認しているところです。ここではタネから種を同定していました。キク科は数が多く、どれもよく似ていて間違いやすいそうです。初心者のうちは特に、花の様子、葉の形などを現地で観察、または写真を撮るだけではなく、標本を持ち帰って調べることが大事です。

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    同定のポイントを解説

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    ジュウモンジシダ

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    ミゾソバ

●鳥班

私は鳥班に同行しました。鳥類調査では双眼鏡、カメラ、スコープといった機材が必要となります。すべて首や肩からかけるとかなりの重さになりますので、初めて機材にふれた高校生のみなさんには少々負担だったかもしれません。機材の操作方法を簡単に確認し、野帳の地形図をみながらコンパスで方角と周囲の地形、現在地を確認して、いよいよ歩きはじめます。

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    カメラや双眼鏡の使い方を確認

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    鳥の姿を求めて移動開始

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    渡りをしていたカケス

午前中はダムをめぐる林道を進みました。ヒヨドリ、ガビチョウなどは鳴き声で確認。カルガモは湖面に浮かんでいる数羽をスコープで観察しました。特筆すべきはカケスで、渡りの時期だったらしく、一か所でしばらく足を止めてみていると南にむかって次々と飛んでいく姿が何羽も確認されました。

午後は橋を渡って、対岸へ。農地のビニールハウスの上にはセグロセキレイ、道路脇の木の上にはモズがとまっていて、どちらも写真に収めることができました。鳥を撮るカメラは望遠のためブレやすく、また慣れていないとファインダーでとらえることも難しいですが、高校生のみなさんは初めてにも関わらず上手に撮影されていました。また、調査時間終了間際、空に晴れ間がみえたタイミングがあり、ノスリ、ハイタカといった猛禽類の飛翔を確認できたのは幸運でした。

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    セグロセキレイ

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    ハイタカ

課題

今回のプログラムは、調査体験をして終了ではありません。現地調査で得られたデータをまとめ、環境アセスメントについても考えていきます。まずはじめに高校生のみなさんには確認種リスト、重要種確認状況票を作成していただきました。本来、この部分は調査員が直接指導しながら行う作業だったため、リスト作成時のこまかい注意点についてはうまくお伝えできませんでした。次回以降の課題とさせていただきます。また種の並び順を河川水辺の国勢調査のリストに基づいて決めるというのは初めてのリスト作成では難易度が高かったかもしれません。(※今回の重要種選定基準は、文化財保護法、種の保存法、環境省レッドリスト2020、宮城県レッドリスト2021に加え、仙台市で独自に設定している重要種を含めています)

確認種位置図、環境情報図についてはみなさんのデータを頂き、今回はエコリスで最終的な図にしました。この図をもとに、「樽水ダム周辺で道路の拡幅工事が行われることになった」という仮想事業を設定し、この工事によって環境にどんな影響があるか、どのように生きものを保全していけばよいのかを各班ごとに考え、まとめていただきました。

■樽水ダム環境教育プログラム_確認種リスト

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    植生図と現地調査結果の重ね合わせ

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    環境情報図

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    仮想事業の設定

2日目:発表会

2021年11月14日(日)、プログラム2日目の発表会は東北大学青葉山キャンパスの一室をお借りして開催しました。
会場前のスペースには、大判の紙に印刷した環境情報図、確認種位置図を掲示いただいており、ここで記念撮影も行われました。会場の机には当社のマスコットキャラクター「エコリスちゃん」のペーパークラフトが飾られていて、社員一同大いに驚きました。作成してくださった青葉環境保全のスタッフのみなさま、ありがとうございます。

※青葉環境保全さんの2日目のレポートはこちらです。
■発表会終了!「自然環境調査をもとに”オリジナル環境情報図”を作成してみよう」

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    環境情報図、確認種位置図の掲示

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    エコリスちゃんペーパークラフト

○課題の発表

開会の挨拶は青葉環境保全代表の佐藤社長よりいただきました。続いて、生物の確認種リストについて補足的な説明を行いました。生きもの好きであっても、リストの必要性や表記の仕方、なぜ河川水辺の国勢調査が基準とされているのかなどはなかなか知る機会がないと思います。本来はリスト作業まえにご説明する機会を持つべきでしたが、今回はこの場で代えさせていただきました。

課題についての考察は植物班、鳥班、魚類・底生動物班、両生類・哺乳類・昆虫班の順にスライドで発表していただきました。工事による直接的な生息環境の改変についてだけではなく、工事中の騒音や振動、濁水についての言及もあるなど、どの班も想像以上にしっかりと考えられた立派な発表でした。まとめとして環境アセスメントについての解説を行い、第一部終了。休憩をはさんだ第二部では動画と画像で現地調査をふりかえり、他の班がどのように活動していたのかを興味深く拝見しました。

最後に、参加されたみなさんの記念撮影を行い、プログラムの全日程を終了しました。

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    開会のご挨拶

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    リストについての解説

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    各班の発表

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    環境アセスメントについて

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    記念撮影

終わりに

今回の環境教育プログラムでは、現地調査の体験だけではなく、その調査が何のために行われるのか、自然や生きものを知ることにはどんな意味があるのかをみなさんに考えていただきました。人間の生活は自然からの恩恵なくしては成り立ちません。人もまた自然の一員であり、その自然は私たちが想像する以上に精妙な仕方でお互いに関係し、繋がりあっています。気候変動による自然災害が年々大きくなり、持続可能な社会のために行動しようという気運が高まっている昨今ですが、このように身近な足もとの自然を知ることから、環境について、これからの社会について考える端緒にしていただければと思います。

※参加された高校生のみなさんの感想はこちらからご覧ください。
■自然環境調査体験プログラムへ参加した感想について

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