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夏から秋へ(五輪から一輪?)

2016年9月1日
文:佐竹 一秀
(WEB公開:2023年12月7日)

夏とともに去り行く熱…

だいぶ過ごしやすくなってきました。気温だけではなく、オリンピック熱も収まってきました。地球の真裏でのリオデジャネイロ五輪でしたので、寝不足も解消です。

  • 謎の草(種名○○)

    謎の草(種名○○)

リオ五輪の結果は?

日本のメダルの数は金12、銀8、銅21、合計41個で、前回ロンドン五輪の金7、銀14、銅17、合計38を上回り過去最高のメダル数でした。個人的には体操の内村航平、子供のころから見ていた、卓球女子の泣き虫愛ちゃん、卓球男子の水谷、水泳や柔道、レスリングもよかったです。バトミントン女子で金の高橋・松友ペア、仙台のウルスラ学院英知高でシングル同士余っていた二人を次の大会のためだけに「たまたま」組ませたのが始まりとのエピソードも面白かったですし、霊長類最強女子の吉田沙保里の銀や、卓球女子の銅も涙なくしては見られませんでした。そんな中でも陸上の4×100mの銀メダルは感動ものでした。9秒台の選手が多いなか、10秒台の日本の4選手、アンカーのケンブリッジ飛鳥の隣にはジャマイカのボルトが…。ボルトの3冠(100m,200m,4×100m)も見事でした。北京、ロンドン、リオと3回続けて三冠、9個の金メダルですから、まさに「ライトニング(稲妻)・ボルト」人類史上最速のスプリンターですね。ただタイムは9秒81でしたので、自分の持つ世界記録の9秒58(2009年8月の世界選手権)にはおよばず、リオ五輪を最後に現役引退との話をしているようです。世界記録の100m9秒58は時速にすると37.5km/hです。ボルトには失礼ですが、自動車は速い(当たり前ですが…)。

人より断然速い動物たち

動物の最速ランナーは何でしょうか。よく知られているチーターは110km/hです。ダチョウも飛ばずによく走ります。鳥と思って安心してはいけません95km/hで突っ走ります。ライオンやグレイトハウンド(ドッグレース用の犬)は60km/h、キリンは50km/h、さらには巨体のアフリカゾウでも40km/hです。これらの動物と野外で会うことはありませんが、最近出没情報の多いツキノワグマも50km/h以上で走れるとのことです。ボルトの足をもってしても逃げ切れません(私なら周回遅れ…の前に食べられてしまう…)。

9月に咲く花といえば

前置きが長くなりましたが本題です。9月、秋です。下旬にはお彼岸です。前から書こうと思っていた題材がありますが、写真が揃わず先送りしていました。花の写真はいっぱいあるのですが、葉っぱの写真がなかったのです(上の「謎の草」です)。

皆さんもよく知っている花です。が、葉っぱだけではよくわかりません。地面から急に茎が伸び、そこに真っ赤な花が咲きます。茎と花だけでその時に葉はありません(下写真)。花が終わってから葉が出てくるのです。桜も同じように花の後に葉が出ますが、葉桜という言葉もありますし、木に茂っているのでわかります。葉っぱだけで識別できる人は少ないと思います。ヒガンバナの別名は曼珠沙華(まんじゅしゃげ・まんじゅしゃか)といい、サンスクリット語で天界に咲く花という意味です。慶事の兆しに赤い花が天から降ってくるという、仏教の経典から来ています。私は山口百恵の「曼珠沙華(マンジュシャカ)詞:阿木燿子 曲:宇崎竜童」が出てきました。私と同年代(60歳前後から上)であれば、懐かしく思い出した人も多いのではないでしょうか。

  • ヒガンバナ

    ヒガンバナ

種ができない花

日本のヒガンバナは種子を作れません。普通の植物であれば花を咲かせ種を実らせ、その種をタンポポのように風を利用したり、引っ付き虫のオナモミの種のように動物の体にくっついて運んでもらい、生育地を拡大していきます。おいしい果実となって鳥や獣に食べてもらい、糞にまみれながらも、分布を広げることに一生懸命になっている植物もあります。種子の作れないヒガンバナは、人間の手で移動させない限りは分布を拡大できません。しかし現状は北海道から琉球列島まで日本全国に広く分布しています。それほど有用な植物でしょうか。確かに花はきれいですし、一面に咲いているところでは見事としか言いようがありません。一方で、赤に花に毒々しさを感じ、彼岸花という名前にお墓や死を連想してしまい、好まない人も多いと思います。事実、曼珠沙華以外の別名として死人花(しびとばな)、地獄花(じごくばな)、幽霊花(ゆうれいばな)、捨子花(すてごばな)等と忌み嫌われる言葉で呼ばれることも多くあるようです。

  • ヒガンバナ

    ヒガンバナ

毒がある!その効能

毒々しさもあると言いましたが、その通りで全草有毒です。特に鱗茎(りんけい:ユリ根のように地下に肉厚の鱗状の葉のようなものが重なりあった塊)にアルカロイド(リコリン等)を多く含んでいます。花が終わった秋から春先の葉の時期には、食用のノビルやアサツキに似ているため、誤食して中毒になったというような話も見聞きします。誤食すると吐き気や下痢を起こし、ひどい場合には中枢神経の麻痺を起こして死に至ることもあるので、要注意です。ただ、鱗茎にはでんぷんが多く含まれていて、有毒成分のコリンが水溶性であることから、長時間水にさらすことで無害化、食用にできます。そのため、昔から飢餓時の非常食として植えられ、それが日本全国に広がった要因と考えられています。畦に植えることでネズミ、モグラなど田を荒らす動物が鱗茎の毒を嫌って避ける効果が期待され、もともと湿った場所を好むため、育てやすかったと思います。というよりは、そのような場所に鱗茎を植えれば勝手に育ち、増えたと考えられます。お墓の周りに植えられたのは、土葬された遺体を、動物の堀荒らしから防ぐ効果を期待したと思われます。日本では種を付けないと書きましたが、原産地の中国には種を実らせるヒガンバナもあります。ただ種を付けることで、鱗茎に回る栄養分が少なくなり、少し小さめの鱗茎となります。非常食として考えると少しでも大きくなるほうが有効です。そのため、日本には鱗茎の大きくなる、種なしタイプが持ち込まれたと考えられています。それが現代まで引き継がれ、全国に広がり赤い花をつけています。稲の伝わる時代より前の話のようです。

お彼岸には古代人の知恵を思いつつ、ご先祖様の墓参りをしては如何でしょうか。たくさん咲き誇っているヒガンバナもきれいですが、一輪のヒガンバナも絵になるように思います。五輪から一輪…オリンピックからヒガンバナ、無理やりのこじつけです。

  • ヒガンバナ一輪

    ヒガンバナ一輪

  • 【参考文献】
  • 稲垣栄洋『面白くて眠れなくなる植物学』(PHP研究所,p166-167,2016年)
  • 上田慶介監修『いきもののふしぎ』(講談社,p16-19,2014年)
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