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植物の不思議!

2016年12月1日
文:佐竹 一秀
(WEB公開:2023年12月7日)

植物はなぜ動かないのか?

日の出が遅く、暮れも早くなり、夜の長い時期となりました。秋の夜長? 初冬の夜長…。何かを考えてみたくなる季節でもあります。そこで、長年の疑問をじっくりと考えてみることにしました。

植物はどうして動かないのか…。植物に聞くのが一番ですが、植物とは話せません。逆に動物はなぜ動くかを考えると答えがあるように思います。動物は動いて何をしているのか、多くの動物では餌探しに時間を費やしています。動き回り餌を探し、食べることで生命を維持しています。生命維持が可能になったところで、次の世代に命をつなげる繁殖活動を行います。植物は餌を探し、食べる必要はありません。太陽光と水と二酸化炭素から、生きるために必要な糖分を作り出すことができるのです。そうです、光合成という、エネルギー発生装置を持っています。またその他の必要な栄養素は、根から吸収して必要な物質を作り出すことができます。「独立栄養生物」という言われ方もします。一方で動物は自分で栄養分を作りだせません。動物の餌は元をたどれば全て植物です。肉食動物もその餌となるのは草食動物。鳥類も昆虫を餌としますが、昆虫も幼虫時代に植物の葉っぱを食べます。そのため動物は「従属栄養生物」といわれます。

  • 誰かがかじった?葉っぱ

    誰かがかじった?葉っぱ

植物は「環境」

動かない理由はわかりましたが、次の疑問です。生物はその環境に適応しながら進化してきました。その途中段階では、環境に適応できずに滅びた種も数知れずあります。環境の変化に適応するためには、移動できることが一番の対応策と思います。それを思うと植物は動けません。真っ先に淘汰されてしまうのではないでしょうか。しかし、私たちの周りは植物であふれています。現在の地球上では植物は20~30万種と繁栄しています。なぜ植物は淘汰されないのでしょうか。同じように動物側から考えてみました。上にも書きましたが動物の餌は全て植物です。もし、植物が淘汰されて無くなれば、動物そのものも生きていけません。と考えると、動物にとって植物は、気温や湿度、日射量や酸素濃度などの基盤環境の一つとみなせます。気温などの環境変化に適応して生き残った植物、その植物を餌にすることができるように適応した動物のみが生き残る。これが環境変化に適応しながら進化するという事ではないでしょうか。

モンシロチョウは菜の花が好き?

「ちょうちょう ちょうちょう 菜の葉にとまれ 菜の葉が飽いたら桜にとまれ…」季節外れの歌ですが、菜の花やキャベツ畑の周りを飛び回るモンシロチョウの姿が連想できます。幼虫のアオムシはアブラナ(菜の花)やキャベツなどのアブラナ科の植物を餌にします。そのためモンシロチョウはアブラナ科の植物に卵を産みつけるのです。また、足の先端でアブラナ科から出ている物質を確認できるので、次から次へと飛び回ってアブラナ科の植物を探し、そこに産卵するのです。「モンシロチョウはアブラナ科の植物が大好きなのですね!」という言われ方を耳にします。本当に大好きなのでしょうか…。

  • モンシロチョウ

    モンシロチョウ

動物と植物のはてしない戦い

アブラナなどの食べられる側の植物からすると、とんでもない話です。葉を食いつくされてしまっては、花を咲かせ種をつけることができません。食害です。植物もただ黙って食べさせていることはありません。忌避物質や有毒成分を体内に蓄積し、防御するのです。アオムシ側からすれば食べられなくなるのは死活問題です。解毒能力を身につけ対応します。すると植物側もさらに強い防御対策をとり…さらにアオムシも…と、いたちごっこになります。それではアオムシが別の植物を食べるようになれば良いのではないでしょうか。残念ながら難しいと思います。別の植物は別の毒物により防御態勢を整えています。今まで対応していた解毒能力を捨てて、新たな解毒方法を身に着けなければなりません。それも早急に身につけなければ、毒物にやられるか、食べることができずに餓死するかです。やはり、現在の競争相手と戦い続けるのが最善の方法と思います。この結果として、モンシロチョウとアブラナ科、アゲハチョウとミカンやカラタチ、オオムラサキとエノキというような関係が出来上がりました。このようにある種の動物(昆虫)にとっての餌植物を、食草(しょくそう)あるいは食樹(しょくじゅ)呼びます。また、哺乳類でもコアラとユーカリなどがこのような関係です。

恐竜の絶滅は植物も一因

次は植物の防御力が勝って、絶滅した?動物の昔話をします。昔話と言っても、人類が現れる前の大昔の話です。トリケラトプスはご存知でしょうか。子供たちの好きな恐竜です。名前のトリは3で、三本の角を持つ顔という意味のようです。恐竜の?栄したジュラ紀は巨大な裸子植物の森が広がっていていました。その時代の草食恐竜は首を長く進化させ、巨大化した樹木の上にある葉を食べていました。その後白亜紀になると、きれいな花をつける被子植物が進化してきました。裸子植物はスギ、マツ、ソテツなどのように高くなる樹木です。一方被子植物は草丈が低く、きれいな花をつける草花です。トリケラトプスはその草花を餌とするように、首は短く頭は下向きつき、現代のサイのような体形に進化していきました。裸子植物と被子植物の大きな違いは、世代交代の速度です。裸子植物のマツの受精は1年程かかります。一方で被子植物は数時間から数日程度で受精が完了します。また恐竜時代の終わりの時期は地殻変動や気候変動などの環境変化が大きい時代でした。そのため、環境に適合するためのスピードが求められ、淘汰が進みました。成長は遅く、受精も風任せの裸子植物に対して、1年あるいは数年で成長し、美しい花をつけることで昆虫を集め、受粉の精度を上げていく被子植物。進化の速度はさらに早くなりました。アオムシとアブラナの関係のように、進化の過程で食害を防ぐための防護策も身につけました。アルカロイドという有毒成分です。トリケラトプスはこの毒性に対応しきれず中毒したのではないかと推察されています。また化石などにより器官の肥大や、卵の殻が薄くなるなどの中毒が疑われる生理障害も認められているようです。恐竜絶滅の直接的な原因は小惑星の衝突とされていますが、被子植物の進化も恐竜絶滅に影響を与えたと考えられています。

  • トリケラトプス(動物フィギア:タカラトミー製)

    トリケラトプス(動物フィギア:タカラトミー製)

こんな話を書いている時期に、東京で気象観測史上初の11月の積雪が観測されました。季節変動が激しい時代です。間もなく人類も絶滅…最大の原因は裸子植物の反乱…そうですスギ花粉…

  • 【参考文献】
  • 稲垣栄洋『面白くて眠れなくなる植物学』(PHP研究所、34-37,42-47,104-107頁、2016年
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